介護の現場においては、日常生活以上に利用者に配慮した取り組みが必要で、些細な事でも危険につながりやすいです。その確認の為、ヒヤリハット報告書というものを書く事があります。今回は、介護現場におけるヒヤリハット報告書の書き方や記入例などを解説します。

目次

ヒヤリハット報告書とは?

ヒヤリハットという言葉を、どこかで聞いたことはあるでしょうか?ヒヤリハットとは、重大な事故につながりかねない状況のことを指しており「ひやりとした」「ハッとする」というようなときに使われます。

自動車の運転中、ドライブレコーダーの危うく事故につながるような状況にも使われますが、介護現場でも用いられており、介護の現場の中で経験した状況を情報として収集、共有する事で、事故防止につなげる目的で書かれるのが、ヒヤリハット報告書です。

報告書には、利用者の基本情報、発生した時の日時や場所、事故の種別などの状況、発生時の経緯や原因などの内容、それらに対しての対応や、想定される事故と今後の対応策などを記載します。

ヒヤリハットの発生原因

ヒヤリハットが起きる原因は様々考えられ、1つは利用者側の原因があります。認知症である、足が不自由であるなど、利用者自身の状態等が原因で起きる事故があり、転倒や転落は最も多いと言われています。

2つ目は、介護現場における支援者側の原因です。施設の仕事も非常に大変で、疲労ゆえに集中力が低下し、事前の防止が出来ずに事故につながる事もあります。

もう1つ、介護環境が原因になる事もあります。施設そのもの、または福祉装置など物的な要因によって事故が起きる事も考えられ、この場合には施設や装置の改善を図らなければなりません。

ヒヤリハット報告書を書く理由

ヒヤリハット報告書を作成する理由は、今後発生しうる事故を防止するというのももちろん入っています。ですがそれだけではなく、介護のケアの質を向上する、ご家族とのトラブルを防ぐなど、様々な理由があるのです。

理由①未然に事故を防ぐ

まず1つ目の理由は、やはり未然に事故発生を防ぐことです。事故の中には、防げるものと防げないものがあります。介護現場においても、利用者の意思によって転落したりするなど、避けようがないときもあるのです。

ですが、先に解説したように職員のミスなど支援者側が原因であるときもあります。同じような事例を集め、原因を分析するなどして、介護事故を未然に防止するための対策を立てる事が大切です。

現場で発生した小さなミスであっても、残らずに報告書として形にして残す事で、日々の介護現場における危険性に気づく力も養えます。

理由②ケアの質を向上させる

2つ目は、支援者側のケアの質を向上させるためです。ヒヤリハット報告書を作成して共有し、事例を残すのは、なぜそれが発生したのか、どう対処していればよかったのか、原因と対策を考えるためでもあります。

原因と対策が分かったのであれば、介護の方法の見直しや業務そのものの改善が行われることになります。ケアの質を上げる事は、両社にとっての安心なサービスへとつながり、支援者にとっては事故を未然に防ぐ安全な業務に繋げられます。

理由③トラブルを防ぐ

そしてもう1つ、トラブルの未然防止という目的もあります。介護施設に入っている利用者が高齢になればなるほど、日常生活を送る上での事故の発生率は比例して高くなります。もし認知症などがあった場合、その可能性は猶更高いです。

利用者に何かあった場合、ご家族とのトラブルも避けられないことになるでしょう。これを防ぐためにも、報告書として残すのが大切で、介護において記録に残す事はマスト、とすら言われているほどです。

だからこそ、ヒヤリハット報告書を作成しておき、これをご家族と共有する事で、何があったのかを分かりやすく伝えられますし、細かなことまで伝えられれば、信頼関係の構築にもつながるのです。

ヒヤリハット報告書の書き方

この様に、ヒヤリハット報告書を作成する理由は、怪我等の防止だけではない様々なものが含まれているのです。報告書として作成する以上、自分だけが見るものではなく、施設の支援者やご家族にもみてもらいますので、書き方にも気を付けなければなりません。

書き方①5W1Hを意識する

まず1つ目は、5W1Hを意識した書き方です。やはり様々な人の目にすることとなる報告書なのですから、誰もが一度見れ場その内容がすぐにわかる、端的に事実が記載されているものでなければならないのです。

  1. When(いつ、時間)
  2. Where(どこで、場所)
  3. Who(誰が、人物)
  4. What(なにを、なにが、物、行動)
  5. Why(なぜ、どうして、理由、原因)
  6. How(どうした、どうする、対応、対策)

5W1Hは、このように誰がどこで何をしていて、それに対してどんな対応を取ったか、または必要なのかを記載します。可能な限り、これらの項目を内容を絞った短い文章で書くことが求められます。

書き方②主観を入れない

2つ目は、記載内容に主観を入れない事です。先に何度か述べている通り、ヒヤリハット報告書は様々な人が読むことになる文書です。その場にいなかったスタッフや管理者でも、状況が分かりやすく把握できる文書にする必要があるのです。

その為、見たまま、聞いたままの客観的な事実だけを報告書に記載するべきです。○○さんはスタッフの言う事を聞いてくれない、些細な事ですぐに気を曲げる、などの私情を入れても、分かりにくくなるだけなのです。

もしも客観的事実だけではなく、自身の推測も混ぜ込んで記載するのであれば「~と思われる」というような形で、誰の目から見ても推測を付けていると分かる形で付け足しておきましょう。

書き方③端的に書く

3つ目は、端的な文書にまとめて記載する事です。1つ目の書き方で述べたように、基本的に報告書を作る際には、5W1H、そして何が起きたのかを客観的な視点から事実のみ記載します。

実際に記載する時には、出来る限り箇条書き、または長い文章にならないように短文でまとめられると理想的です。文が長くなるほど、読むのに時間がかかって要点がどこなのか分かりにくくなるからです。

簡潔に短い文章にしていれば、必要な部分だけが記載されていることになりますから、共有すべき情報がすぐに分かります。

書き方④専門用語は避ける

そして、専門用語は避けて書くことも大切です。ヒヤリハットの報告書を見るのが、介護現場のスタッフだけという限定的なものであれば、誰しも知識のある人たちばかりですので、専門用語が多少入っていても伝わりはするでしょう。

しかし、実際にはヒヤリハット報告書は、スタッフ、そして利用者のご家族や、行政関係の人も目を通す書類です。当然、誰でも専門用語を知っている訳ではないので、知らない人が読んでも内容を理解できません。

こうした書類である事を考慮して、誰が読んでも理解可能な文書にする必要があります。例えば、ナースコールを「NC」と略する事は多いですが、書く時には略さずに書きます。

具体的な事例とヒヤリハット報告書の記入例

介護の場において、どんなトラブル、ヒヤリハットが起きるかは分かりませんが、具体的な事例はいくつか挙げられます。最後に、介護におけるヒヤリハットの具体的な事例と、報告書の記入例を解説します。

入浴介助時の記入例

  1. 午後11時15分ごろ(When)
  2. 浴槽で(Where)
  3. A様が(Who)
  4. ぐったりしているのを発見した(What)
  5. 他の利用者に気を取られていた(Why)
  6. 血圧を測り、脱衣室で落ち着くまで横になってもらった(How)

まず、入浴介助時の記入例になります。基本である5W1Hの項目を全て埋め、それぞれの文を簡潔に一文のみでまとめてあります。時刻なども具体的な数値を入れて、どんな状況でどう対応したかに至るまで、明確に記入するのです。

食事介助時の記入例

  1. 12月4日12時30分ごろの昼食時(When)
  2. 共有スペースの食卓で(Where)
  3. B様が(Who)
  4. 激しくせき込んでいるのを発見した(What)
  5. みそ汁の具であった豆腐をのどに詰まらせていた(Why)
  6. 背中のタッピングの後、看護師によるバイタルチェックと経過観察を行い、異常なしと判断(How)

もう1つ、食事介助時の記入例になります。文章がまとまりづらい場合には、箇条書きで記入しても分かりやすいです。読む人が余計な先入観なく事実を確認できるよう、私情を入れずに起きたことをすべて基本項目に基づいて記載されています。

介護現場でヒヤリハット報告書を活用しよう

ヒヤリハット報告書は、事故の未然防止だけではなく、今後のトラブルや職員の職務改善にもつながる重要な報告書です。十分に活用してみてください。

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