老人ホームが看取り場所の選択肢に加わったことで、医療機関や在宅のみならず介護施設による看取り介護が可能になりました。この記事では看取りについてや看取り介護などについて詳しく説明します。看取り介護を考えているご家族の方は、入所者に対するケアや流れなどを理解できるはずです。
看取りとは
そもそも看取りとはどのような意味があるのでしょうか。終末期医療との違いや緩和ケアとの違いについてもここで理解しておきましょう。
看取りの意味
看取りの意味は、病状の回復が期待できず死期が迫っている方を無理に延命治療を施すことなく、自然と亡くなっていく過程を見守るということを表します。
自分らしく最期を迎えたいという気持ちに寄り添い、サポートをしつつ見守ることが看取りです。介護施設では主にそのような方の精神的なケアや身体的なケアを行います。日常生活を支えていく手伝いをするのが中心です。
終末期医療(ターミナルケア)との違い
看取り介護において終末期医療と何が違うのかと疑問に思われる方が多いです。いずれも理念に関しては人間の尊厳を守ることが共通しており、無理に延命治療は行いません。ただ2つの違いは終末期医療、看取り介護と言われているように、医療行為があるかないかの部分です。
終末期医療においては亡くなる間際に介護や治療を行います。看取り介護では医療行為をせず、身体的苦痛や精神的苦痛を取り除くための日常的な生活のケアがメインになります。
緩和ケアとの違い
似たようなもので緩和ケアも挙げられます。緩和ケアは延命治療をしている方や病気の治療をしている方に対して、身体的、精神的苦痛を緩和させる支援やケアを行うものです。そのため死期が近い方とは限りません。
看取りの場所の選択肢
人生の最期を迎える場所には選択肢があります。本人の希望やご家族の希望に合わせて看取りの場所を選ぶことができるのです。希望だけでなくそれぞれの事情によっても変わるでしょう。
在宅での看取り
生まれ育った家や馴染みのある畳の上で最期を迎えたいと希望する方は多いです。しかしながら実際に在宅での看取りが叶うケースは少ないです。在宅以外で亡くなられる方はおよそ80%以上にも及びます。
近年では在宅での看取りが行える医療機関は増加傾向にありますが、病状やサポート体制によっては難しいのが現状です。在宅の看取りを希望した場合、そのための環境を徹底し24時間体制で介護医療ができる状態にしなければなりません。
医療機関だけでなくケアマネージャーやソーシャルワーカーとも相談し、最期の時間を満足できるようにサポートします。本人の希望に家族も納得すれば、医療機関や介護士などの協力によって在宅での看取りも可能です。
医療機関での看取り
最期を迎える場所で一番多いのはやはり医療機関です。ほとんどの方が医療機関で亡くなるため、今後は看取り場所の不足も懸念されています。
看取りは延命治療をせず日常生活のケアをすることに対して、医療機関での看取りは点滴や酸素の吸入などを含む医療ケアが行われます。これはターミナルケアと呼ばれ、人間の尊厳を守り死を迎えられるようにする医療行為や苦痛の緩和などがメインです。
介護施設・老人ホームでの看取り
2006年の介護報酬改定によって看取り介護加算が創設されました。そのため、介護施設や老人ホームでの看取りも可能になり、徐々にその数も増えています。要介護度の高い高齢者の方が入所する特別養護老人ホームで最期を迎える方も多くなっています。
入所者のケアももちろんですが、入所者家族のケアも行われます。要介護度の高い入所者を家族が四六時中介護するのは体力的にも精神的にも難しいでしょう。とはいえ介護施設に預けるのは無責任なのではと悩む方もいます。
しかし本人が最期を迎えるまでの日々を自分らしく過ごせたり、家族の負担も軽減できたりと介護施設や老人ホームでの看取りも悪いことではありません。
介護施設での看取りケア
では介護施設での看取りケアはどのようなことが行われるのでしょうか。介護施設での看取りを希望する家族や考えている方は参考にしましょう。それぞれのケアについて詳しく説明していきます。
ケア①入所者の身体的ケア
【環境設備の整え】
入所者が安心して過ごせるための環境を整えています。例えば部屋の温度は的確であるか、生活のリズムが崩れないように日差しや照明の調整、住み慣れた部屋なのかなど穏やかに暮らせる配慮を行います。
【清潔保持】
入浴介助や入浴が難しい方は清拭、歯みがきなどの口腔ケア、洗顔や着替え、爪切りや部屋の掃除など入所者の体の清潔を保持します。細菌感染を防いだり、皮膚の機能を保持したりするためにも必要なことです。入所者本人もキレイでいることは尊厳維持にもつながります。
【排泄のケア】
排泄のケアはデリケートな問題です。そのためプライバシーに配慮したケアが行われます。例えば入所者の状況によって排泄介助なのかおむつを使用するのか、尿取りパッドを使うのかなどを決めていきます。
日々の排泄回数を観察し記録するため些細な変化にも気付けるでしょう。また寝たきりの方には体位を変えたり、褥瘡(床ずれ)のケアも行い身体的な苦痛がないように配慮します。
【食事の提供】
栄養バランスを考えた食事の提供や水分補給のケアも行います。施設によっては入所者の希望に沿った食事メニューを提供するところもあるでしょう。食の喜びを最期まで感じられるような環境づくりを行います。
ケア②入所者の精神的ケア
身体的なケアは日常生活を送るにあたって欠かせないことですが、看取り介護では精神的なケアも行います。思うように動かない体の身体的苦痛から来るストレスや、死期が迫るにつれて倦怠感や吐き気などを催すとも言われてい居ます。また死期が迫ることに対しての恐怖も感じるでしょう。
そのための精神的なケアはとても大切です。できるだけ誰かと一緒にいるような状況を作り、部屋への訪問回数も増やして寂しい、辛いと感じる時間を少なくします。
家族に話しかけてもらったり、施設のスタッフが手を握ったり等のスキンシップも行います。話す内容にももちろん気を配り、不安にさせない精神的なケアです。また人間は聴覚が最期まで残ると言われています。死期が近くなったとしても優しい声かけが大切です。
ケア③入所者家族へのケア
入所者だけでなく入所者家族へのケアも怠りません。家族が希望する入所者へのケアなどの話を聞くのはもちろんのこと、大切な家族が亡くなってしまうという現実に施設がしっかりと寄り添います。不安な部分や精神的ストレスからくる身体的苦痛へも対応できるようにケアを行います。
また、入所者の死後についても話し合うグリーフケアも重要です。葬儀まで滞ることなくしっかりと見送ってあげるためにも家族と介護施設で話し合っておくことが必要です。
介護施設での看取り介護の流れと注意点
介護施設で看取り介護を行う場合、どのような流れで対応してくれるのでしょうか。ある程度の流れを分かっておくことで看取り介護に理解を示し、不安を軽減できるはずです。また注意点も解説するので覚えておきましょう。
看取り介護の流れ
【入所】
まずは施設に入所します。介護施設に本人や家族が希望する最期に向けた過ごし方を話し、介護施設は話を聞いた上で対応を確認、説明します。
【安定期】
少しずつ施設の生活にも慣れて入所者が安定してきます。生活が安定してきたことによって、入所者本人が最期を迎えるための準備を整えることが可能な段階です。
【不安定期】
衰弱が進行し、不安定な時期です。食欲の低下や体重の減少が見られはじめます。入所者本人と家族には今後どのような状況になるか予測されることを説明します。
【終末期】
衰弱し回復を見込めず、終末に向かっていきます。家族には心の準備や最期に立ち会える準備をしてもらい、会いたい知人などへ連絡をします。
【看取り】
家族に見守られながら、最期を迎えます。家族は感謝の意を込めて言葉を贈りましょう。
【看取り後】
看取り後は最後に家族の時間を過ごします。施設スタッフは家族の気持ちに寄り添いつつも、医師、葬儀会社などへ連絡します。
介護施設での看取り介護の注意点
まず介護施設での看取り介護を希望していたとしても、医師の判断によっては医療機関で最期を迎える可能性もあるということを頭に入れておきましょう。治療が必要な状態だと医師が判断した場合、医療機関へ搬送され最期を迎える場合があります。
また、看取り介護をお願いする介護施設を選ぶ際にも注意が必要です。本人はもちろん家族も納得できる介護施設の方針や看取り介護の体制などを確認しておきましょう。最期を迎える場所になるため、妥協はせず安心して任せられる場所を選んでください。
死期が近い家族へ後悔しない看取りをしよう
介護施設における看取り介護についてご紹介しました。本人や家族にとって一番良い方法で看取りを行いましょう。人としての尊厳を守り、最期まで後悔なく生きる介護施設選びは重要です。良い人生だったと感じられる最期を迎えるためにも、本人と家族でしっかりと話し合い決めていきましょう。