自宅で介護を行っている方の中で、入浴時の介護が非常に困難だと感じている方は少なくないはずです。そんな時に、訪問入浴サービスを利用することで心身ともに負担を軽減することができるのではないでしょうか。今回は、訪問入浴サービスの流れや費用、条件など詳しく解説するので、ぜひ参考にしてみて下さい。
訪問入浴とは
訪問入浴とは、自宅の浴槽に自分一人で入れなくなってしまった要介護者に対して受けられる介護サービスです。入浴介助が困難な場合、自宅へ簡易的な浴槽を運び入れ、専属のスタッフが入浴の手伝いをしてくれます。
訪問入浴の内容
訪問入浴の主なサービス内容は、入浴前の体温や血圧などの健康チェックと、全身浴、洗身、洗髪、清拭など入浴時の介護、入浴後の衣服の交換などを行います。入浴時の全身浴、部分浴などは、その日の体調や健康状態を考慮しながら体に負荷がかからないよう変更する場合があります。
また、浴槽も入浴車に積み込まれているので、自宅の浴室を利用する必要はありませんが、専用の浴槽を置くスペースだけは室内に確保しておく必要があります。
訪問入浴介護と訪問介護(入浴介助)の違い
訪問入浴介護と訪問介護の違いは、浴槽まで全て用意してくれるかという点と、介護するスタッフの人数が異なります。訪問入浴介護は、簡易浴槽をリビングなどスペースのある場所まで運んでくれて、自宅の浴室などから水を引き、看護師を含むスタッフ3名の介助のもと洗身や入浴を行います。
一方で、訪問介護は自宅の浴室を使用し、要介護者が入浴する際にスタッフ1名がサポートする形になります。費用はもちろん後者のほうが低価格にはなりますが、介護度の高い高齢者などは訪問入浴介護のほうが家族も安心できるでしょう。
訪問入浴サービスの利用条件
訪問入浴のサービスを受けたい場合は、一定の条件を満たしている必要があります。その条件というのが、要介護1~5認定を受けている方、医師から入浴を許可されている方に限るというものです。特例で、要支援の方でも自宅に浴室がないなど特別な理由がある場合は認められることもあります。
要介護認定は、居住している市町村の役所に申請し、審査に通過した方のみが受けることができます。また、入浴の許可というのは、血圧や酸素飽和度などに問題がある場合、入浴をすることで更に悪化する可能性もあるため、医師から入浴の許可をもらうことが必須となります。
これらの条件をクリアしていれば、ケアマネージャーの方に相談しながら訪問入浴を検討してみると良いでしょう。
訪問入浴サービスの利用時の流れ
ここで、訪問入浴サービスを利用した場合の大まかな流れを解説していきます。家族が手伝うことはほとんどありませんが、参考までに目を通してみて下さい。
訪問入浴にかかる時間
訪問入浴の場合、浴槽を自宅に運び入れるところからスタートし、健康チェックや着替え、そして最後の片付けのまで含まれるため、45~60分程度の時間がかかります。
実際に入浴している時間は10~15分程度なのですが、入浴車から浴槽を室内に運び込み、自宅の浴室や給湯から水を引き、お湯を沸かすなどの作業も含まれるため、所要時間は長めになります。訪問入浴中は家族の見守りは特に必須ではないので、1名以上在宅していれば問題なく行えます。
訪問入浴流れ①健康チェック
まず入浴をする前に、看護師による健康チェックが行われます。これは、入浴中の事故や体調の急変などを防ぐためで、体温や血圧、脈拍、酸素飽和度などを計測します。
これらの数値に問題がなく、利用者の体調も通常通りであれば入浴することが可能ですが、万が一何らかの問題があった場合、看護師の判断で入浴を中断、もしくは延期する場合があります。また、入浴はやめて清拭のみ行ってくれる場合もあるので、相談してみると良いでしょう。
訪問入浴流れ②準備・脱衣
健康チェックを行い入浴可能と判断されれば、スタッフのサポートで脱衣を行い入浴準備に移ります。室内は、ヒートショックを防ぐためにも空調で温度を調節しておくと利用者の体に負荷をかけずに入浴が行えるでしょう。
床には防水マットを敷き、浴槽を運び入れてから自宅の浴槽などから水を引きます。その水は、入浴車に設置されたボイラーで沸かし、適温のお湯になります。
訪問入浴流れ③入浴
全ての準備が整ったら、スタッフによる介護のもと浴槽に移動します。浴槽は足まで伸ばして寝そべった姿勢になれる広さがあるため、利用者はただゆっくりと湯船に浸かっているだけの状態です。その間に介護スタッフが洗身や洗髪を行います。
介護スタッフは力仕事も含まれるため、女性だけでなく男性スタッフが同行する場合もあります。しかし、利用者が女性の場合、男性スタッフがいることに抵抗があるという方も少なくありません。その逆のケースも、もちろんあり得ます。
そのため、入浴時は同性スタッフのみにサポートしてもらいたいという利用者の希望があれば、事前に伝えておくことで考慮してもらえるため、家族が気遣ってあげることも大切です。
訪問入浴流れ④着衣・健康チェック
入浴を終えたら、スタッフが軽く体拭きを行ってから着衣もサポートしてくれます。この時に、保湿クリームや軟膏などの塗布も同時に行ってくれるため、必要なものは全て入浴が終わるまでに用意しておきましょう。
その後、再度体温や血圧などの健康チェックを行い、体調や数値に変化がないか確認します。問題がなければ、利用者はベッドに戻って入浴は終了となります。
訪問入浴流れ⑤後片付け
看護師が着衣や健康チェックを行う時間に、他の介護スタッフは浴槽の洗浄と片付けを並行して行います。自宅の浴槽は使用していないので家族が片付けるものは一切なく、介護の負担も大きく減らすことができるでしょう。これで、訪問入浴の一連の作業は全て完了となります。
訪問入浴サービス利用時の費用
訪問入浴サービスを利用した場合の費用ですが、時間換算ではなく1回あたりの金額が決まっているため、週や月の利用頻度によって異なります。また、要介護・要支援などの区分によっても定められている金額が異なるので、以下でご紹介しましょう。
訪問入浴の利用頻度
訪問入浴の利用頻度は、利用者にもよりますが週1~2回程度が平均的な利用回数だと言えます。費用は時間ではなく回数で計算されるので、少しでも費用負担を減らしたいという方は週に1回から始めてみると良いでしょう。
本人が「気持ちが良いのでもっと入浴したい」と希望すれば、体調が安定している場合に限り利用頻度を増やしていくというのがおすすめです。
他にも、利用者の介護度や体調の変化によっても推奨される利用頻度は変わってきます。介護度の重い方や体調が変わりやすい方は、ケアマネージャーや医師と相談しながら検討してみて下さい。
訪問入浴にかかる料金【要介護】
訪問入浴にかかる料金は、要介護1~5の利用者で、介護保険適用かつ1割負担の場合、全身浴が1,260円、部分浴・清拭が1,134円となります。全て1回あたりの金額であるため、例えば週1回から週2回に増やした場合の月額費用は、単純に2倍の金額となります。
また、訪問入浴の場合、看護スタッフ1名、介護スタッフ2名の計3名でサポートを行うのが基本となりますが、看護師なしで介護スタッフ3名を希望した場合や介護スタッフを1名減らした場合は、費用が若干減額されることもあります。
しかし、当然ながら看護師が不在である場合、健康面に関して万が一問題が合ったときに介護スタッフが独断で判断することは難しく、介護スタッフが足りない場合、より長い時間を要したり利用者の安全を十分に確保できないこともあるため、そういった点を踏まえて検討する必要があります。
訪問入浴にかかる料金【要支援】
一方で要支援1・2の方が訪問入浴を利用する場合は、全身浴で852円、部分浴・清拭で767円と要介護者に比べて1回にかかる料金が安価になります。これは要支援者の場合、自力で浴槽に入ったり洗身を行える方も多いため、スタッフの人数を少なくできたり、負担を大きく減らすことができるからです。
訪問入浴のメリットとデメリット
続いて、訪問入浴のメリットとデメリットについて解説します。浴槽の準備から入浴、衣服の着脱、片付けまで全て介護スタッフが行ってくれる訪問入浴は、利用者にとってもその家族にとってもメリットは大変多いです。しかし、費用面や利用者のメンタル面などで少々デメリットになる点があるのも現実です。
訪問入浴のメリット
訪問入浴のメリットとしては、浴槽の準備から入浴、片付けまで全てスタッフが行ってくれるため、家族の負担が大きく減らせること、看護師が健康状態の管理をしながら入浴中も常にサポートしてくれるので、体調面でも安心して任せられること、利用者の気分がリフレッシュされることなどが挙げられます。
やはり家族だけで入浴介護を行うとなると、力仕事で身体的にも精神的にも負担になる場合が多く「万が一お風呂の中で体調が変化したらどうしよう」などといった不安も伴うでしょう。そうなると入浴頻度も減ってしまい、体が痒くなってしまったり体臭が強くなることもあります。
その点では、訪問入浴によって定期的に入浴ができて、しっかり全身を洗ってもらうことができれば、利用者もスッキリする上に入浴中はリラックス効果や血行促進効果もあり、健康面でもメリットとなります。
訪問入浴のデメリット
一方で訪問入浴のデメリットは、費用負担が少々大きくなってしまうこと、入浴を介護してもらうことにストレスを感じる利用者がいることなどが挙げられます。訪問入浴は介護保険を適用することが可能ですが、訪問介護による入浴介助と比較すると、自己負担額は約2倍の金額となります。
入浴に関する全てのサポートをしてもらえて、高品質なサービスを受けられる訪問入浴に対して1,260円の金額を払うのが安いと思うか高いと思うかは人それぞれですが、今まで訪問介護を利用していた方が訪問入浴に変更した場合、高くなってしまったと感じる方は少なくないでしょう。
また、見知らぬスタッフの前で裸になって体を洗ってもらうということにストレスを感じてしまう利用者もいるため、最初のうちは拒否されることもあります。回数を重ねるうちに慣れていく方もいますが、抵抗のある方は何度行っても不快に感じてしまうため、家族の希望通りにならないというケースもあるでしょう。
訪問入浴おすすめの人の特徴
最後に、訪問入浴がおすすめの利用者の特徴をまとめておきます。自力でほとんどの動作が行えるという方ならば訪問介護でも良いかもしれませんが、以下に挙げるような方は訪問入浴を検討してみても良いでしょう。
訪問入浴おすすめの人①寝たきり
要介護認定を受けている方の中には、寝たきりの高齢者や体が不自由な方も多く含まれます。当然ですが、寝たきりの方は自力で浴室まで行って入浴したり全身を洗うことは不可能なので、家族に介護できる方がいてもなかなか難しいのが現実です。
その場合、訪問入浴を利用することでプロのスタッフが衣服の着脱や浴槽までの移動、入浴、洗身、健康チェックまで全てをサポートしてくれるので、非常におすすめです。
また、寝たきりの方は体をほとんど動かさないため、関節や筋肉の状態が凝り固まって自分で自由に手足を動かせない場合がほとんどです。その点でも、寝そべった状態で入浴し全身を洗うことが可能なので、無理に体を動かす必要もなく、利用者にとっても最小限の負担で抑えることができます。
訪問入浴おすすめの人②自宅のお風呂が狭い
要介護者の入浴を介護するには、プロのスタッフでも2~3名の人手が必要となります。そのため、家族で介護するにも1名では非常に困難で、2~3名で協力しながら入浴の介助を行わなくてはならないでしょう。ほとんどの動作が1人でできる方ならば良いですが、自力だと難しいという方ならば尚更大変です。
そんな時に自宅のお風呂が狭いと、まず全員入室することが出来ないという問題が出てきます。また、一般家庭の浴槽は片面が壁に面しているため、両側からサポートすることが出来ず、片面から数名で介助するという状況になってしまいます。
一方で訪問入浴では、リビングなどの比較的広いスペースを一時的に使用しながら入浴介護が行われるので、浴槽の両側からサポートできます。また、プロのスタッフ数名が手際よく洗身や洗髪をこなして短時間で終えることができるので、自宅での浴室介護が困難かつ時間がかかってしまうという家庭にもおすすめです。
訪問入浴おすすめの人③体調が変化しやすい
高齢で体調を崩しやすい方や、ガンの闘病中である方、慢性的な疾患を抱えている方などは、入浴を行うことで健康状態が低下したり体調が急変する場合もあります。自宅で介護をしていると、万が一のことが起きた時にどうしたら良いかわからず家族が慌ててしまい、焦ってパニックになることも考えられます。
訪問入浴を利用すると看護師が同行するため、体温や血圧、脈拍などの数値を入浴の前後に必ずチェックし、利用者の体調も入念に確認してから入浴を行います。湯船に浸かる時間やお湯の温度などもしっかり考えてサポートしてくれるため、体調が変化しやすい利用者でも安心して任せることができるでしょう。
また、看護師が近隣のクリニックと連携して、健康状態に何らかの変化が見られた場合はすぐに医師と連絡を取り合える態勢を整えていれば、急な事態にも効率よく対応してくれるはずです。
訪問入浴サービスの利用はケアマネを
訪問入浴サービスは、利用者にとってもその家族にとっても安心して利用することができます。介護が大変だと感じている場合や、入浴時に心配な気持ちが強いという方は、ケアマネージャーに相談して訪問入浴を検討してみてはいかがでしょうか。