訪問介護事業所は、介助や支援を必要とする人の生活を支えるためになくてはならない存在です。その目的は、利用者が住み慣れた地域で自立した生活を送ることができるようにすることです。今回は、訪問介護事業所の役割や仕事内容、訪問介護員として働くための資格について紹介します。

目次

訪問介護事業所とは

ヘルパーステーションと呼ばれることもある訪問介護事業所では、事業所に所属する訪問介護員(ホームヘルパー)が、要支援1・2、要介護1~5の認定を受けた高齢者の自宅を訪問し、介護サービスを提供します。

訪問介護事業所の役割

訪問介護事業所の役割は、利用者が可能な限り住み慣れた地域で自立した生活ができるように支援することです。

訪問介護員が提供する訪問介護サービスは、大きく「身体介護」と「生活援助」の2つに分けられます。

訪問介護員になるには、介護福祉士、介護職員初任者研修修了者、介護職員実務者研修修了者のいずれかが必要です。資格がない場合は、基本的に訪問介護員として働くことはできません。

訪問介護事業所の特徴

ここからは、訪問介護事業所の特徴について解説していきます。サービスを提供する事業体の違い、提供するサービスの違いなどをしっかり理解しておくことが大切です。

特徴①約7割が営利法人

まず、運営主体の約7割が営利法人であることです。老人福祉施設と比較すると、その差は歴然としています。老人福祉施設は社会福祉法人が7割以上を占めており、サービス提供主体も異なります。

特徴②サービス提供時の職員体制

次に、サービスを提供する際の人員体制も特徴的です。訪問介護サービスを開設・運営するためには、事業所内に3つの役職(サービス提供責任者/ホームヘルパー/常勤管理者)が必要です。

訪問介護サービスを提供する際の人員体制は、常勤職員及び訪問介護業務に専従する者のうち、責任あるサービス提供責任者を1名以上配置する必要があります。

さらに、利用者が40人以上増加するごとにさらに1人以上の増員や、要件を満たす常勤の訪問介護員を2.5人以上配置すること等も求められています。

特徴③利用可能な対象者

訪問介護を受けられるのは、「要介護1~5」と認定された方のみという特徴もあります。「要支援1~2」と認定された方も「介護予防訪問介護」という形で利用できますが、「要支援1の方は週2回まで」など制限があります。

この介護予防サービスは、介護が必要になるのを防ぐのが目的なので、身体介護よりも生活援助が中心となります。

訪問介護事業所のサービスと仕事内容

訪問介護事業所が提供するサービスは、大きく分けて「身体介護」、「生活援助」「通院等の介助 」があります。それぞれの施設で提供されるサービス内容について、以下に詳しく説明します。

身体介護

身体介護サービスとは、身体に直接触れて行う介護を指します。また、訪問介護員が所定の研修を修了するなどの条件を満たせば、「寝たきりの吸引」を行うことができるようになりました。

食事誤嚥を防ぎ、正しく食事を飲み込めるように食事介助。
入浴身体状況に応じて、安全に入浴できるように介助。全身浴、手浴、足浴のいずれを行うかは、プランによって異なる。
排泄トイレでの排泄が可能な利用者には、トイレまでの誘導や衣服の着脱の補助を実施。トイレが困難な方には、オムツ交換。
体位変換ベッドで寝たきりの利用者に対して、褥瘡(床ずれ)を防ぐために姿勢を変える介助。
移乗介助ベッドから車椅子への移乗、車椅子から浴室や便座への移乗の介助。

生活援助

生活援助サービスとは、必要な家事を行うことが困難な方に対して行う日常生活上の支援を指します。身体介護と比較すると、基本的に直接身体に触れないサービスを行います。

掃除家の掃除(利用者の掃除方法を把握する)
ゴミ出し収集日に合わせてゴミ出し(場合によっては収集場所の掃除も行う)
アイロンがけ必要な場合のみ
洗濯洗濯から収納まで
料理献立・買い出しから片付けまで
買い物生活用品の買い出し代行
ベッドメイクシーツの交換・布団の上げ下げなど

通院等の乗降介助

通院介助は、要介護1~5の患者さんが利用できるサービスです。訪問介護では、通院や公的手続きのための送迎を行います。この場合、介護タクシー利用は支援対象外としています。

1日の仕事の流れ

介護施設等での仕事と比べると、ほとんどの時間を外で過ごすことが多い仕事です。朝出社して打ち合わせをした後に利用者宅まで移動し、夕方に全ての仕事を終えて事務所に戻ってくるのが一般的なスケジュールとなります。

【スケジュールの一例】

09:00 出社
09:00~9:20 打ち合わせ
09:20~10:00 利用者の自宅へ移動
10:00~11:00 訪問先の利用者宅で訪問介護サービスを提供
11:00~11:30 別の訪問先利用者宅へ移動
11:30~12:30 利用者宅にて訪問介護サービス提供
12:30~13:30 昼食休憩
13:30~14:00 訪問先の利用者宅へ移動
14:00~15:00 利用者宅にて訪問介護サービス提供
15:00~15:30 別の患者宅へ移動し、別の訪問診療を行う
15:30~16:30 利用者宅にて訪問介護サービス提供
16:30~17:00 事務所へ移動
17:00~18:00 事務所にて報告書作成などの事務作業を行う
18:00 帰宅

訪問介護事業所で必要な資格と平均給与

訪問介護では、サービス提供責任者や訪問介護員になるために特定の資格が必要です。以下の解説を参考に、転職を考えている方は資格を満たしているかどうか確認してみてください。

必要な資格

【訪問介護員】

  • 介護福祉士
  • 実務者研修修了者
  • 初任者研修修了者
  • 旧介護職員基礎研修過程修了者
  • 旧ホームヘルパー1級課程修了者
  • 旧ホームヘルパー2級課程修了者
  • 看護師・准看護師

例えば、初任者研修は、訪問介護員を目指すなら必ず取得しなければならない資格です。一度取得すれば、施設やデイサービスなど、介護の仕事に活かせます。

訪問介護員だけでなく、施設で働く介護士にとっても初級資格となります。この資格を取得するには、130時間の講義をすべて修了し、試験に合格することが必要です。特に受講資格はありません。

ホームヘルパーだけでなく、介護士全般で必要とされる資格なので、転職の際にも役立つと思います。受講費用は研修機関や地域によって異なりますが、おおよその目安は4万円~9万円程度です。

【サービス提供責任者】

  • 介護福祉士
  • 実務者研修修了者
  • 旧介護職員基礎研修課程修了者
  • 旧ホームヘルパー1級課程修了者
  • 実務経験3年以上の介護職員初任者研修修了者(旧ホームヘルパー2級課程修了者)

特に介護福祉士は、介護分野では唯一の国家資格であり、「介護福祉士国家試験」に合格することで取得できる資格です。

キャリアアップしながら介護の仕事を続けていくために、ぜひ取得しておきたい資格です。受験資格には、介護福祉士養成施設卒業者向けの養成施設ルート、福祉系高校卒業者向けのルート、EPA(経済連携協定)ルート、上記の実務経験ルートがあります。

これらの資格を満たした上で、国家試験を受験して合格し、介護福祉士として登録することで公認されます。合格率は約70%で、試験対策をしっかりすれば合格できるレベルの難易度です。

取得にかかる費用は、上記の資格を満たすために選択するルートによって異なりますが、養成施設ルートを選択した場合、100万円~200万円程度かかるようです。

実務経験ルートを選択した場合は、介護福祉士の実務者研修の受講料がかかりますが、給与をもらいながら受験資格を満たすことができます。

保有資格別の平均給与

厚生労働省の調査によると、訪問介護事業所で働く正社員(保有資格あり)の平均月収は約30万6千円となっています。以下は、資格別の給与です。

資格名平均給与
介護福祉士314,440円
社会福祉士313,300円
介護支援専門員340,800円
実務者研修310,430円
介護職員初任者研修307,410円

訪問介護事業所で働くメリット・デメリット

介護の転職先として訪問介護事業所を考えている方のために、訪問介護の仕事をするメリットとデメリット、そして魅力をご紹介します。

メリット

訪問介護は、利用者と深く関わりながら、その人らしい生活を送るためのサポートやケアができるため、介護士として大きなやりがいと達成感を得やすい仕事です。

また、施設で働く介護士とはまた違った経験ができる仕事でもあります。雇用形態や求人の種類が豊富なため、訪問介護の仕事を見つけやすいというメリットもあります。

訪問介護事業所で働くことで、介護士としてキャリアアップできるのもメリットと言えるでしょう。介護職員初任者研修や介護職員実務者研修、介護福祉士などの資格取得を考えている方は、働きながら資格取得を目指すことが可能です。

デメリット

デメリットとしては、施設に比べると給与が安定しないことが挙げられます。勤務時間は比較的自由ですが、施設のように夜勤で高収入を得ることは難しく、人によってはデメリットに感じるかもしれません。

また、訪問介護員は、現場でトラブルが発生した場合、一人で対応しなければなりません。利用者やその家族から過剰なサービスを要求され、トラブルに発展するケースも少なくありません。

さらに、訪問介護では1人の利用者を1人で担当するため、施設に比べると休みが取りにくい傾向があります。

訪問介護事業所は寄り添った支援をしたい人におすすめ

訪問介護事業所は、利用者の自宅を訪問し、介助を行うことでサービスを提供します。勤務シフトはある程度時間の融通が利くものが多く、実務経験が少ない方でも介護の仕事を始められる仕事です。

訪問介護は、利用者と1対1の関係を築きながら介助を行うので、やりがいもあります。訪問介護の介護は、利用者の生活環境や体調がそれぞれ異なるため、一人ひとりに合った介助やコミュニケーションが必要です。

その人に合った支援を行いたい方、プライベートと介護の仕事を両立させたい方にお勧めの職場です。

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