どんな介護生活でも、本人や家族が納得していれば問題ないのですが、なかなかうまくいかないことも多いものです。とはいえ、「うまくいかないこと」が当たり前になってしまうと、いわゆる「不適切なケア」につながることもあります。当記事では、介護現場での不適切なケアの事例を紹介します。予防のための対策も載せていますので、ぜひご活用ください。

目次

不適切ケアとは

不十分なケアは「不適切なケア」と呼ばれ、介護の問題のひとつとされています。何気ない一言や、必要だと思った介助が「不適切なケア」にあたることもあります。

介護が必要な人は少なからず他人に自分を預けるわけですから、本人にとってはさまざまな葛藤が生じます。

「申し訳ない」という気持ちと、「思い通りにならない悔しさ」という複雑な気持ちを抱えている方も少なくありません。

そのような中で不適切ケアと呼ばれる介護状態が生まれる可能性があります。放置していると虐待にも繋がりかねないため、早期に対処することが重要です。

不適切ケアの事例を紹介

介護者が明らかに不適切なケアを認識しているケースもあります。しかし、介護者自身が知らずに不適切なケアをしてしまっているケースもあります。

では、虐待につながる可能性のある不適切な介護とはどのようなものなのか、具体的な事例を見てみましょう。

不適切ケア事例①食事介助

自分で食事ができるのに、手間がかかるからと食事介助をすることは、利用者のできることを奪っていることになります。

利用者さんの能力を維持し、食べることの満足感を維持するためには、本人に確認した上で「自分でできることは自分でやってもらう」ことが必要です。

また、利用者さんの食べ具合が悪いからといって、様々なおかずを全てご飯に乗せて食べさせることは不適切です。

患者さんから食事を楽しむ自由を奪うだけでなく、味も落ちてしまいます。食事に効率を持ち込むべきではありません。

不適切ケア事例②入浴介助

入浴を嫌がる患者さんに、「数日入浴していないから」「きれいにしたいから」と入浴を強要するのは、不適切なケアといえます。

まずは、なぜお風呂に入りたくないのか、患者さんに聞いてみることから始めましょう。思いがけない原因があることが多いものです。

不適切ケア事例③排泄介助

サイズの合わない紙おむつを使用すること、他の利用者がいるところでのオムツ替えなどが不適切ケアにあたります。

排尿、入浴、着替えなど、肌の露出が必要な場合があります。介助者に肌を露出しているところを見られるのは、患者さんにとって恥ずかしいことです。まずは、その羞恥心を理解することが大切です。

例えば、座位は取れるものの認知症でトイレの拭き忘れがある方の介助では、少しドアを開けて安全を確保しつつ、少しドアを閉めて配慮するなど、臨機応変に対応できるとよいでしょう。

また、衣服の着脱を介助する際には、「今から服を脱ぐのを手伝いますね」などと声をかけるようにしましょう。

不適切ケア事例④言葉遣い

介護者は、介護者の都合で利用者の行動を阻害するような発言は慎むべきです。特に好ましくない言葉遣いは「命令口調」です。

排尿介助の際に「早くしなさい」と言ったり、状況を理解していない認知症の患者さんに「ダメと言ったでしょ」と強い口調で言ったりすることがその例です。

命令口調になる心理としては、「相手を動かして自分の思い通りにしたい」というものがあります。相手を尊重した言葉遣いを心がけましょう。

不適切ケア事例⑤拘束

身体拘束や行動制限も不適切なケアの一例です。自力で歩ける患者さんを無理やり車椅子に乗せたり、家具で車椅子の通り道を塞いだり、患者さんの動きを制限するような拘束は不適切な行為です。

不適切ケア事例⑥ネグレクト

ネグレクトとは、高齢者を衰弱させるような著しい食事量の減少、長期間の放置、高齢者を保護する義務の怠慢などを指します。

例えば、水分や食事を十分に与えない、入浴せず異臭がする、医療が必要なのに受診させない、緊急時に対応しないなどは、ネグレクトの一例です。

不適切ケアが起こってしまう原因

介護施設で不適切なケアが発生する要因には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、2つの原因について説明します。

不適切ケアの原因①職員のストレス

介護の現場では、人手不足、業務量の多さ、一部の利用者からの暴言・暴力などにより、多くの職員がストレスを抱えています。

利用者の笑顔が喜びとなる一方で、日々のストレスから感情的になってしまうこともあります。これらの行動は、高いストレスの表れかもしれません。

また、利用者と向き合うのが面倒だからと手を抜いたり、時間内に仕事を終えることを優先したり、時には利用者のためを思って意思を確認せずに強引に介護をしたりすることもあるようです。

不適切ケアの原因②ケア・マネジメントの質の悪さ

介護者のケアの質が低いと、知らず知らずのうちに不適切なケアにつながることがあります。介護士がまだ介護業務に不慣れなため、介護がうまくいかず、利用者を不安にさせることもあります。

そのため、十分な介護技術や、介護者としての役割・立場を再確認することが必要です。また、不適切なケアの原因として、スタッフの仕事ぶりをフィードバックしない、施設のマネジメントの質の低さが挙げられます。

不適切なケアは、それが間違っていると職員に指摘されなければ、根絶することは困難です。指摘する人がいなければ、ケアの質は低下し続けると言えるでしょう。

不適切ケアを予防する対策

不適切ケアをなくそうと思えば、その背後にある問題を解決・改善するための行動が必要となります。ここからは、高齢者への虐待を防止するために、不適切なケアを改善・防止する方法をお伝えします。

不適切ケアを予防・改善する方法

組織運営の健全化を図るために、施設の介護理念や運営方針を明確にし、職員間で共有するようにしましょう。

同時に、各職員の責任と役割を明確にし、柔軟な人員配置などの施策を導入し、ストレスの軽減を図ります。

「見て見ぬふり」「安易な介護」「身体拘束の容認」を防ぐため、風通しの良い職場づくりが重要です。

職業倫理や高齢者の尊厳を守り、不適切なケアが行われないよう、施設内で研修を行い、施設外での研修にも積極的に参加できるような体制を整えることが大切と言えるでしょう。

また、利用者の尊厳を守る利用者ファーストのケアの実践を踏まえ、今、実際に提供されているケアの内容や方法がそれに基づくものかどうか、確認してみましょう。

仕事量を見直す

人手不足の介護業界では、スタッフ一人あたりの業務量が多く、スタッフの都合を優先した結果、不適切なケアになっているケースも少なくありません。

スタッフのマインドセットを行う前に、まずは現場の声をよく聞き、仕事量を見直すべきでしょう。まず、一人当たりの仕事量を減らすために、柔軟な人員配置を検討します。

一人のスタッフが同時に複数の利用者を見るため、「利用者の要望を放置する」「急いでいるのに強い口調で話す」「動作が乱雑になる」といった状況がどうしても発生してしまいます。

これらの問題は、スタッフの問題以前に、そもそものシステムに問題があると考えられます。負担のかかっている役割や業務を見直し、改善するようにしましょう。

スタッフの数を増やす、効率化の機会を導入するなど、過度な負担をかけずに対応する方法はないかを検討してみます。

特に、数人のスタッフで運営されていることが多い夜勤については、配慮が必要であると言えるでしょう。

不適切ケアをチェックリストの活用

介護職の意識改革も重要です。施設内の研修や勉強会などで、自己点検シートを活用し、不適切なケアについて話し合いましょう。

自己点検シート(チェックリスト)を活用し、「何が不適切なケアなのか」「どのような行為が不適切なケアになるのか」「自分自身が不適切なケアを行っていないか」を振り返ることで、不適切なケアを防止する意識を高めることができます。

不適切ケアは高齢者虐待になることを認識しよう

意図せず、あるいは悪意なく行われる不適切なケアが、高齢者の身体的・精神的ダメージを与えるケースは少なくありません。

忙しさの中で、ついやってしまった行為や、言ってしまった言葉が、患者さんを傷つける「不適切なケア」になってしまうことがあります。

不適切なケアは虐待の前兆でもあり、早期の対処が必要です。改善のためには、介護者のホスピタリティや介護技術に対する意識を高め、健全な組織運営を行うことが欠かせません。

そのためには、利用者と介護者、職員間、職員と介護者間など、人と人との信頼関係を最優先することが大切です。

いずれにしても、介護に不安を感じたら、一人で抱え込まずに、職場の同僚や先輩、上司に相談することが大切です。

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