高齢者の介護では歩行介護が一般的ですが、要介護者が転倒するなどの危険な事故につながる可能性があります。そこで今回は、歩行介助を正しく理解して、実際の介護現場で活用できるよう、その目的、方法、注意点、役割などを詳しく解説していきます。在宅介護や歩行介助などをされる方はぜひ、ご参考にしてください。
高齢者の介護で歩行介助を行う目的
高齢になると、介助が必要な場面は増えてきます。その理由は、身体機能が徐々に低下していくからです。
特に「転倒リスク」や「ふらつき」がある方は、自分で歩いたり移動したりすることに不安を感じている方が多いようです。
介護者は、こうした不安を抱える高齢者を見守り、転倒を防止し、安心して歩けるように支援する役割を担っています。
歩行介助の種類と方法
歩行介助には、さまざまな種類があります。体調や歩行の変化に応じて介助方法を変更することも重要であると言えるでしょう。ここでは、歩行介助の種類と適切な介助方法について解説します。
種類①見守り歩行介助
「見守り」とは、ただ単に様子を見守っていれば良いというわけではありません。見守り歩行介助の場合、要介護者が不安定になった時に素早く対応することが必要です。
杖の反対側や麻痺側など、要介護者がバランスを崩しやすそうな位置でスタンバイし、必要が生じたらサッと動けるようにしておきましょう。
種類②寄り添い歩行介助
その名の通り、介護者が要介護者に寄り添いながら介助する方法で、見守り歩行よりも要介護者との接触が密になります。
患者が麻痺している場合は、麻痺している側に立つようにしましょう。お互いが前を向いて歩くため、障害物がよく見え、ストレスなく長距離を移動することができます。
種類③手引き歩行介助
手引き歩行は、介助者が患者さんの方を向いて、手で誘導する介助方法です。ベッドから車椅子への移動など、短距離の移動には手引き歩行が行われる場面が多いでしょう。
利用者の手を握るだけでは安定しないため、介助者は要介護者の手首や肘を支える必要があります。また、介助者は後方に移動する動きとなるため、利用者と一緒に転倒しないように足元に注意する必要があります。
手引き歩行というと、介助者が利用者の体を前に引っ張るイメージがありますが、介助者が支えている手を利用者が押して歩くようなイメージの方が正しいでしょう。
種類④階段の歩行介助
介助者は、階段を上がるときは利用者の斜め後ろ、降りるときは利用者の斜め前に立ちます。重心は麻痺のない方の脚にかけるようにします。
登るときは麻痺のない方の脚を先に出し、降りるときは麻痺のある方の脚を先に出すようにお願いしましょう。
階段の昇り降りは、転倒したときに大けがをする可能性が高いので、平地よりも慎重な介助が必要です。
種類⑤補助器具の歩行介助
歩行器を使用する場合は、介助者の肘が軽く曲がり、要介助者が少し前傾姿勢になるように歩行器の高さを調節してください。
「歩行器」→「麻痺のある足」→「麻痺のない足」の順で歩きます。歩行器と要介護者の体との距離が近すぎても遠すぎても、バランスをとるのが難しくなります。
シルバーカーは、歩行は比較的安定しているものの、膝や腰に痛みや疲れが出やすい方、歩きにくく、物を持ちにくい方によく使われる歩行補助具です。
シルバーカーは、ハンドルの高さやブレーキがかけられるかどうかなど、事前に確認しておくことが大切です。歩行時には必要に応じて脇の下を軽く支えてあげましょう。
歩行介助をする際の注意点
歩行補助を行う際には、上記で紹介した具体的なスキルに加えて、常に意識しておくべきポイントがあります。次に、そのポイントについて説明します。
注意点①転倒リスクを把握
まず大切なことは、要介護者の歩幅やペースに介護者が合わせることです。早く移動しようと無理にリードすると、要介護者がバランスを崩して転倒する可能性があります。
介護者は、要介護者のペースに合わせてゆっくり、確実に、一歩一歩進むことが大切です。高齢者や歩行に障害がある人は、短い距離でも疲れてしまうことが多いでしょう。要介護者の体調を確認しながら、適度に休憩を取るのがおすすめです。
注意点②障害物の確認
屋内移動の際は、進行先の障害物をできるだけ整理し、少なくとも歩行できる幅を確保するとよいでしょう。外出の際には滑りやすい場所や段差などで転倒する危険があります。
特に狭い歩道や交通量の多い道路を通るときは、要介護者を内側にして、危険をすぐに回避できるようにスタンバイしましょう。屋外の移動は、屋内の移動よりも危険が多いことを知っておくことが大切です。
注意点③歩行補助具のメンテナンス
現在、多くの高齢者が杖や歩行器を使って歩いていますが、これらの補助器具が適切にメンテナンスされていないと、転倒につながる可能性があります。
杖の場合は、「滑り止めのゴムが摩耗していないか」歩行器であれば、「タイヤにゴミが詰まって回しにくくなっていないか、フレームにゆがみがないか」といったポイントを定期的にチェックしましょう。
注意点④服装の種類
靴や衣類も転倒の原因になる可能性があります。スリッパやサンダルなどは脱げやすく、滑って転倒する危険性が高くなります。足のサイズに合った、軽くて滑りにくい靴が理想的です。
また、靴下を履いての室内歩行も転倒の危険が高まるので、滑りにくい靴下や室内履きを履くか、裸足になるのがベストです。
靴と同様に、衣服にも注意を払いましょう。ズボンの丈が長すぎたり、ウエストがゆるくてずり落ちたりすると、裾を踏んで転倒することがあります。
注意点⑤休憩を挟む
目的地まで一気に歩いてしまいたくなるかもしれませんが、要介護者の状況を把握しながら必要に応じて休みを取るようにしてください。座って休憩する場合は、立ち上がるときにふらつかないように注意し、ゆっくり立ち上がりましょう。
注意点⑥歩行介助の立ち位置
歩行訓練の基本的な立ち位置は「斜め後方」です。要介護者の正面に立っていると、何かの拍子にふらついたときにすぐに支えることができないので、すぐに対応できる「斜め後ろ」の姿勢で立つようにしましょう。
階段での介助では、上がるときは「後ろ」、下りるときは「前」に立つことが大切です。どちらの立ち位置でも、要介護者がバランスを崩しそうになったときに、すぐに支えることができます。
【補助器具あり】歩行介助の意識したいポイント
次に、歩行介助を行う際のポイントを状況別に見ていきましょう。まずは、補助具を使用する場合から解説します。
ポイント①ポジション
要介護者が歩行器を使う場合、介護者は要介護者の斜め後ろに立ちます。その際、片手を要介護者の脇の下に軽く添えておき、いつでも反応できるようにしておくとよいでしょう。
ポイント②歩行ペース
要介護者が安全に自力で歩けるように、歩幅を合わせ、ゆっくりと一歩ずつ歩くようにしましょう。要介護者のペースや歩幅に合わせることで、楽に前に進むことができます。
歩行器は前方より後方に転倒しやすい傾向があります。そのため、後ろから腰や両側で支えるのがポイントです。
焦って無理に歩かせようとすると、介護者がバランスを崩して転倒したり、ストレスを感じたりすることがあります。
【補助器具なし】歩行介助の意識したいポイント
ここからは、補助具を使用しない場合の歩行のポイントを確認します。重心位置の確認と、要介護者への声かけの重要性を銘記しましょう。
ポイント①ポジション
介護者が要介護者の前に立つと前方歩行動作の妨げになるため、介護者が要介護者の視野に入らないように、やや後ろに位置するようにします。
介護者の身体は利用者の身体に密着させず、歩行動作の妨げにならない程度に利用者の身体に密着させましょう。
介護者の体が要介護者の体から離れすぎていると、要介護者がバランスを崩したときに介護者が受け止める力が必要になり、迅速な対応が難しくなります。
何があっても対応し、要介護者を支えることができる位置にいることを自覚することが大切です。右側に立っている場合は、右手でその人の右手をつかみます。
左側に立っている場合は、左手で相手の左手を下から支えるようなイメージで握ります。もう片方の手は、背中に回してください。
相手がバランスを崩して倒れたときに、腕で受け止められるように、腰や骨盤のあたりにつけるとよいでしょう。
転倒の危険性が高い場合や、膝のトラブルが心配な場合は、つながっていない方の手を横に移動して支えます。このとき、腕の動きを妨げないように注意が必要です。
ポイント②声かけ
要介護者の重心が右に移動した場合、介助者も右に移動します。足音、歩幅、リズム、間隔などを意識しながら、「いっちに〜いっちに〜」と声かけしながら一緒に動くと歩きやすくなります。
要介護者の残存機能を活かすこと、重心で脚を支えること、歩行動作を補助することを意識すると、スムーズに次のステップへ進むことができます。
それぞれの要介護者の歩き方の特徴を把握し一人ひとりに適した仕方で介助していくようにしましょう。
ポイント③歩行のペース
補助具を使用する場合と同様に、補助具を使用しない場合でも要介護者の歩行ペースに合わせることが必要です。
無理に引っ張ったり、急いだりすると、転倒の原因になります。一人ひとりのペースに合わせた介助が大切です。
安心・安全に歩行できるように正しい歩行介助をしよう
以上、要介助者の歩行を介助する時の正しい方法や、注意すべき点をまとめました。歩行介助には様々な方法がありますが、いずれも利用者の歩行状態やペースに合わせて行うことが大切です。介助者と利用者の双方が協力して、スムーズな歩行ができるようにしましょう。