介護業界は、業務の性質上、「事故」や「トラブル」などのリスクが高いことから、常に予測をし、対策をとり続けていかなければなりません。質の高いリスクマネジメントであれば、介護サービスを利用する高齢者やその家族との信頼関係を築くことができ、また、職員の離職防止にもつながります。

今回は、リスクマネジメントの重要性や考え方などについてご説明させていただきます。

目次

介護現場で起こりやすい事故

介護現場で起こりやすい事故とは

よくある介護事故には、以下のようなものがあります。

  • 転倒
  • 転落
  • 誤嚥
  • 誤飲
  • 誤薬
  • むせこみ など

平成26年8月25日から平成29年10月28日までの期間を対象に、消費者庁より厚生労働省老健局に報告された276の介護事故事例では、「転倒・転落・滑落」が全体の約6割を占め、続いて「誤嚥・誤飲・むせこみ」多いようです。

ちなみに、最も多かった「転倒・転落・滑落」は、車椅子やベッドでの移乗動作時、排泄時や入浴時など、様々な場面で起こり得る事故のため、ほとんど日常生活の中で発生します。

介護現場での事故の例
  • 椅子や車椅子、ソファ、ベッドなどから立ち上がる際に転倒。
  • 立位や歩行がもともと不安定な方が、後ろから声をかけられ、振り向いた際にバランスを崩して転倒。
  • 排泄介助中、職員が紙おむつを取ってくるため、数十秒間傍を離れている間に、利用者が便座から転落。
  • 排泄介助中、職員が紙おむつを取ってくるため、数十秒間傍を離れている間に、利用者が便座から転落。
  • 職員の介助によりベッドから車椅子に移乗した際、座りが浅くなってしまい、利用者が車椅子から滑落。
  • 職員のリスク認識不足による、食事中の誤嚥。
  • 食事の配膳ミスにより、他の利用者に用意していた薬を誤飲。
  • 薬が入っているPTP包装シートを、認知症の利用者が誤飲。

介護事故予防に活かしたい「ヒヤリハット」

介護職の方なら、思わず「ヒヤリ」「ハッ」と、一歩間違えれば大きな事故に繋がっていたかもしれない経験が一度はあるのではないでしょうか。 この「ヒヤリハット」を見過ごさなければ、事故の発生するリスクを下げることに繋がります。

ヒヤリハットの例
  • 職員が車椅子のブレーキをかけ忘れてしまい、利用者を車椅子に座らせようとした際、車椅子が後方へ動いてしまい、利用者が尻もちをつきそうになった。
  • 利用者を車椅子に乗せて外出した際、歩道端部が傾斜になっているのに気付くのが遅れ、車椅子が車道へ流されてしまったため、車と接触しそうになった。
  • 車椅子での移動中、フットサポート(足を乗せる部分)から利用者の足が落ちてしまい、移動している車椅子に足が巻き込まれそうになった。
  • 他の利用者の内服薬を誤って飲ませようとした。

ここで挙げた事例は、主に転倒系(転倒・転落・滑落)や誤飲、投薬ミスによるものですが、他にも、食事中の口腔内の火傷や、衣服・おむつなどによる皮膚トラブル、入浴中の洗体時の擦り傷、口腔ケアによる受傷、感染症感染、補聴器などの紛失・水没・破損、利用者同士のトラブルなども介護事故にあたります。

介護事故が発生する原因とは

介護現場で介護事故やヒヤリハットが発生する原因は、「介護を受ける利用者(被介護者)側」と「介護をする職員(介護者)側」とで、それぞれ理由が異なります。

被介護者側の原因

介護サービスを受けるほとんどの方が高齢者です。老化が進むと、全身の様々な機能が衰えてくるため、身体・心に少しずつ変化がみられるようになります。

身体の変化
  • 視力や聴力、嗅覚、味覚などの低下
  • 記憶力の低下
  • 歯が弱くなる
  • 筋肉の低下
  • 血管が固くなり、弾力性がなくなる
  • 骨が脆くなる など
高齢者にみられるこころの変化
  • 環境の変化に適応しづらい
  • 集中力持続時間の低下
  • 物事への関心がなくなる など

高齢者は、心身の様々な機能の低下が進むため、事故に合うリスクも必然的に高くなります。

また、身体の回復力や免疫力も低下しているので、本来ならちょっとしたケガで済むような事故でも、高齢者にとっては大きな被害となってしまい、結果的にQOL(生活の質)を低下させる場合もあります。

介護者側の原因

介護者側からみた場合、介護事故・ヒヤリハットの原因には、以下のようなことが考えられます。

  • 人手不足
  • 職員同士での情報共有不足
  • 設備や用具等の不備
  • 慣れ
  • 施設内のルール、仕組み など

職員同士での情報共有が足りなければ、本来なら防げたかもしれない事故を防ぐのは不可能です。業務に「慣れ」が生じて確認が不十分になってしまうこともあるため、介護事故やヒヤリハットの見逃しが無いようにしましょう。

また、介護業界の人手不足が慢性化していることも事故のリスクを高める要因となっています。

高齢者は、老化に伴う心身機能の低下により、転倒や誤嚥等の事故を起こす危険性が高く、ちょっとしたケガで重症化しやすいため、サービスが疎かにならないよう人材の確保の対策も重要です。

介護現場におけるリスクマネジメントの重要性

介護現場における「リスクマネジメント」には、目的があります。

  • 介護現場における「リスクマネジメント」には、目的があります。
  • 事故の被害を最小限に抑える

介護中に発生する事故をあらかじめ予測しておくことが重要です。リスクマネジメントは、利用者の身体的・心理的・環境的な安心安全の確保が前提となります。

リスクマネジメントは、利用者の身体的・心理的・環境的な安心安全の確保が前提となります。

利用者の命を危険にさらしてしまうのを防ぐ

介護現場で起こる事故は、利用者の健康を著しく低下させるだけでなく、命に危険が及ぶこともあります。

若い人なら打撲で済むちょっとした躓きが、高齢者では骨折になることもあります。さらに、これをきっかけに、認知症や廃用症候群等が一気に悪化するケースも考えられます。

食事中の誤嚥は、誤嚥性肺炎を引き起こす原因となるだけでなく、食べ物が詰まってしまうと、最悪の場合、死に至ることもあります。

利用者の命を守るという意味でリスクマネジメントは非常に重要であるといえます。

増加傾向にある介護事故の高額訴訟予防になる

様々な介護サービスが利用できるようになったのと同時に、介護事故による訴訟件数も増えています。

例えば、認知症の方が施設を抜け出してしまったり、夜間のトイレで転倒したりして利用者が死亡した場合、「施設の管理が悪い」として、家族が裁判をおこすケースがあります。

これは、利用者の尊厳のため、身体拘束は禁止されていますし、利用者を常に見守るというのも実際は難しいところでもあります。

もちろん、施設として、利用者の安心・安全を確保できるようにしていること前提ですが、それでも事故を完全に防ぐことは難しいでしょう。

しかし、訴訟問題に発展すれば、高額な賠償金が請求されるだけでなく、介護施設の信頼も失ってしまう可能性があります。 このような問題が起きてしまわないようにするためには、リスクマネジメントが必要となります。

職員のモチベーションの維持

リスクマネジメントを行うことは、利用者を守るだけでなく、職員のモチベーションを維持するためにもなります。

時には、利用者が暴力を振るうこともありますし、利用者家族が理不尽なことを言ってくるもこともあります。 職員の離職率が高くなる可能性もあるため、リスクマネジメントにより職場の改善を行うことは、職員のモチベーションにも影響します。

介護現場におけるリスクマネジメントの考え方

介護業務は、他の職種に比べて事故が起こるリスクが高いといわれています。

例えば・・・

  • 食事をする⇒誤嚥
  • 入浴する⇒転倒、沈溺
  • 散歩(外出)をする⇒転倒、段差や溝の引っ掛かり、交通事故
  • 介護施設送迎(車の乗り降り)⇒転倒、転落   など

以上のように、介護現場のリスクマネジメントでは、事故が発生するかもしれないリスク「予知(予測)」をし、起きないようにするための「準備」をします。

予知(予測)

  • これまでに起こった事故やヒヤリハットの事例から原因を分析し、様々な場面において、事故が発生する状況を最大限に予知(予測)する。
  • 避けられない事故(例えば身体機能の低下とは関係なく、本来介助が必要ない場面で起こった事故など)が発生した時に備え、対策をとる。(スタッフの人数配置を増やしておく、万が一に備えたスタッフの教育など)

準備

  • 事故やヒヤリハットの原因を研究し、様々な場面において、事故が起こるのを防ぐための対策をとる。
  • 事故はいつどこで起こるか分からないため、常に設備の点検などを行ったり、対策の見直しを行ったりする。

介護事故は様々な場面や状況で発生します。施設は、身体機能が衰えている方や、疾病・障害を抱えている方、認知症の方などがいるため、常に、重大な事故やトラブルが発生するリスクを抱えています。

だからといって、「転倒」を防ぐため、高齢者を歩かせないようにしたり、「誤嚥」を防ぐため、口からものを食べさせないようにしたりといった対応は、利用者の心身の健康状態を悪化させ、結果的に、本来なら健康であったはずの機能まで衰えさせてしまう可能性があります。

過度な対策は、利用者の尊厳にも関わるため、たとえ身体機能が低下してきても、その人らしい生活が送れるよう、自立支援などを図るケアもしていかなければなりません。 介護事故を完全になくすことは難しいことかもしれませんが、利用者の安心・安全の施設利用のためにも、リスクマネジメントを活用していきましょう。

介護現場の事故を予防するためのリスクマネジメント

介護現場におけるリスクマネジメントにおいて、介護事故が発生するリスクを防ぐためには、ただ「気を付ける」といったものではなく、施設のルールを変えるなど、より広い視野で対策をとることが必要です。

これは、介護事故が発生した場合でも、被害を最小限に抑えられ、サービスの質の向上にもつながります。

①施設のルールを見直す・変更
介護事故の発生は、施設としてのルールが、職員のミスを誘発している可能性もあります。もちろん、職員一人一人のスキルアップや意識の改善も必要ですが、組織の仕組みを変えるなど、根本的な改善を行わないまま、事故が起きるたびに対策をとっていては、きりがありませんし、職員の負担もかかります。
施設のルール改善によって、万が一事故が発生した場合でも、被害を最小限に抑えることができます。
根本的に改善するためには、ケアの手順や中身・組織の体制を見直しなど、個人だけの意識ではなく、組織で取り組み事故を防いでいくことも大切です。

②ヒヤリハットがあった場合は報告をする
寸前で防ぐことができたものの、事故につながっていたかもしれない「ヒヤリハット」を見過ごしてしまうと、いずれ本当に大きな事故を引き起こしてしまう可能性があります。
ヒヤリハットの報告は、介護事故発生を防止するための非常に重要な事例の一つです。
「事故が起きなくて良かった」で終わりにするのではなく、必ず職員同士で共有し、「ヒヤリハット」の段階で原因を分析・改善等を行えば、〝防げる事故〞を防ぐことができます。

③介護事故の分析と原因の究明
発生した介護事故の収集・分析をしっかり行い、なぜ事故が起こったのか、どうすれば事故を防ぐことができたか、どこを改善し、今後はどのようにしていくべきかを踏まえたうえで対策をとることで、本質的な事故対策につながります。
これは、結果的に、サービスの質の向上や、介護職員自身を守ることにもなります。

まとめ

今回は、介護現場におけるリスクマネジメントの重要性や考え方などについてご紹介しました。

事故の発生リスクが高い介護現場では、職員同士での情報共有や、組織全体での対策が重要です。

介護事故を防ぐためのさまざまな対策は、万が一重大な事故が発生し、利用者の家族から施設の責任を問われた場合も、適切な対応をしていたことが説明でき、介護職員を守ることにもつながります。

質の良いサービス提供が、利用者の安心安全のケアにつながるよう、介護事故やヒヤリハット事例などを参考にし、最善の対策を取れるようにしていきましょう。

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