介護現場では、シフト制の勤務体系をとっている施設が多く、毎日同じ職員が同じ時間に業務を行っている訳ではないため、スタッフ同士の「申し送り」が行われています。この「申し送り」は、利用者に適切な介護を継続的に提供していくために必要な情報を伝える重要な役割を持っています。

今回は、介護現場の申し送りのポイントや、申し送りの例などについてご紹介させていただきます。

目次

介護現場の申し送りとは

介護現場における「申し送り」とは、交替制勤務(シフト制勤務)を取っている施設や事業所において、行った業務の内容や必要事項、注意事項等を、交替時に次の時間帯に働く介護スタッフに口頭や介護記録等で伝達することをいいます。 申し送りで伝える内容は、主に以下の通りです。

  • 前の時間帯で行った業務
  • 利用者に起こった体調の変化や様子
  • 次の時間帯に必要な処置や対応
  • 医師などからの指示の内容 など

具体的には、尿量や排便の回数、食欲といった利用者の体調に関する情報や、利用者に施された処置の内容、業務の状況やスケジュール等を伝えます。 もちろん、介護事故やヒヤリハットなど、イレギュラーな案件が発生した場合も、伝える必要があります。

似たような言葉で「引継ぎ」という言葉がありますが、引継ぎは、前任者の業務を後任者が引き継いで代わりに行うことであり、必要な情報を伝える申し送りとは意味合いが異なります。

申し送りの目的

介護現場において、申し送りは非常に重要な業務です。
申し送りを行う主な目的は、以下の通りです。

利用者に対し適切な処置やサポートを行うため

利用者の体調は常に同じというわけにはいかないため、いつもと違う様子がみられたり、気になる症状があったりする場合には、その時の状態に合わせて適切な処置・対応を行わなければなりません。傷やケガがみつかった場合も同じです。

医師の診断が必要と判断された場合にも、利用者がどのような処置を受けたか、処置後は施設としてどのように対応していけば良いか、次の時間帯にしなければならないことは何か等を共有しておく必要があります。

特に夜勤は、ほとんどの施設が少数体制であり、場合によっては職員一人で全ての入所者を担当しなければならないこともあります。日勤の申し送りにより利用者の状態等をあらかじめ把握し、起こり得る状況に前もって準備しておければ、急変時にも冷静かつスムーズに対応しやすくなります。 このように、申し送りは、利用者に適切な介護を組織的・継続的に提供することに繋がる重要な業務となります。

介護事故やトラブルを防止するため

例えば、利用者が、体調不良により、普段飲まない薬の一時的な服用や、リハビリ時間の変更、食事の形態変更などに、次の時間帯に働く職員がその情報を知らなければ、適切な対応ができず、大きな事故やトラブルに繋がってしまう可能性があります。介護スタッフ間での情報共有が不足していたことによる介護事故やトラブルなどは、避けなければなりません。

介護施設では、高齢で身体が不自由な方や、認知症の方などを相手にしていますから、介護スタッフでしっかり正確な情報を共有し、普段からどんなに対策や予防をしていても、介護現場で事故を完全に防ぐというのは難しく、予想できないトラブルがどうしても起きてしまうこともあります。

そのため、介護事故やヒヤリハット(事故に至らなかったものの、重大な事故が起きていた可能性のある出来事)などが発生した場合は、今後同じことが起きないよう、他の職員にも申し送りによって情報を共有し、施設全体で対処・対策していかなければなりません。 このように、申し送りは、ケアの質の向上やリスク軽減のために欠かせない業務となります。

介護現場の申し送りのポイント

伝える情報は正確に

申し送りで最も大切なことは、〝正確な情報を伝える〟ということです。

申し送りで伝えなければならないことができた場合には、自分の記憶力に頼らず、必ずメモに残しておくようにしましょう。業務中はなかなか大変かもしれませんが、後回しにせず、できるだけ早めに、こまめな記録を心がけてください。

メモに残す際は、日頃から、「5W1H(When(いつ)、Who(だれが)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように))」を意識して書くようにすると、要点を押さえられ、情報が整理しやすくなります。

また、「ときどき」といった曖昧な表現は、人によって感覚が異なるため、「10分おき」「1時間ごと」など、具体的な数字や固有名詞などを使うようにすると、伝える側と聞き取る側でズレや誤解を防ぐことができます。利用者の様子をみてほしい時は、「今、どこの状態が気になっていてしばらく見ていてほしいのか」、具体的な状況をもっと伝えるようにしましょう。

簡潔に伝える

スムーズな申し送りのため、内容はポイントを絞って簡潔に伝えるようにします。話を聞く側としても、必要な情報や重要な情報だけが入ってきやすくなりますし、申し送りにかかる時間も短縮することができます。

また、話す順序も大切であり、結論を話してから説明に入ったり、申し送りをする前に、今日の連絡事項はいくつあるかなどを先に伝えておいたりすると、聞く側も理解しやすくなります。

事実と意見を分ける

例えば、利用者の様子について伝達する際に、「昨日の夜から調子が悪そうに見える」と伝えると、利用者本人は実際に調子が悪いのか、介護スタッフが個人的にそう感じただけなのかが分かりづらく、結局、一番伝えなければならない情報が伝わらなかったり、聞く側が間違った解釈をしたりすることがあります。 実際にあったことと、自分の意見・推測が混ざらない伝え方をするようにしましょう。

介護現場の申し送りの一例

AM4時頃、利用者がベッドから転落しているのを発見しました。ベッドの下に敷いてあるセンサーマットが鳴らなかったため、すぐに気付くことができませんでした。痣はありますが、傷や腫れ、出血などはなく、通常通り歩くこともできています。
本人も痛みはないとのことですが、念のため、担当医へ相談しまして、本日、○時に診てもらうことになりました。

POINT:利用者の現在までの様子や状況を伝え、次の時間の職員に今後の対応をお願いする。

昨日の夕食では食欲がなく食事を残してしまったため、栄養補助食品を提供。次の日の朝に食形態を通常食から一口食で出してみたところ、残さず食べたため、昼食も同じようにお願いしました。

POINT:途中で変更された内容等に関しては、申し送り時に必ず伝達する。

利用者に関する情報、ケア方法や業務内容の変更等、介護士が業務中に把握しておくべき情報は必ず伝えます。 他職種とのやり取りでは、主に利用者についての情報の伝達がメインとなります。

介護現場で申し送りの際に使う介護記録とは

冒頭でもお伝えした通り、申し送りでは、口頭で相手に直接伝えるだけでなく、介護記録を使用して伝達する場合もあります。 介護記録は、施設や事業所の職員の間で情報を共有するために使用される日誌のようなもので、次の時間から働く職員だけでなく、ミーティング時にいなかった職員や他職種の方が、いつでも確認をすることができます。

介護記録にかかれている内容

  • 利用者の日常の様子、バイタル、体調、過去(勤務開始時)から現在に至るまでの状態の経過
  • 利用者に実際に行った介護
  • 利用者、あるいは利用者の家族からの要望、連絡
  • 事故が起こった場合の記録(発生の日時や事故発生時の状況、行った対応、発生原因)
  • 事務連絡(次の時間に必要な看護処置等)

介護記録は、申し送りのためだけに使用されるものではなく、介護に関する情報を記録として残しておくことができるため、利用者の今後のケアプランへの反映や、万が一思わぬ事故などが起こった場合でも、施設側としてはこのような対策をとっていたなどの証拠になることもあります。 介護は、医師や理学療法士、ケアマネジャーといった他職種のスタッフと連携し取り組んでいく必要があるため、組織全体で情報共有を図るためには、介護記録は非常に重要なものであるといえます。

まとめ

今回は、介護現場の申し送りのポイントや、申し送りの例などについてご紹介させていただきました。

介護では、ケアプランに沿って決められた介護サービスを提供するだけでなく、利用者のその時の心身の状態に合わせて適切なケアを継続的に行うことが求められています。

〝適切なケアを継続的に行う〟ためにも、申し送りは非常に重要な業務です。

伝え方がわかりづらい表現だったり曖昧な表現だったりすると、重大なリスクに繋がってしまう可能性もあるため、情報は正しく、簡潔に、ポイントを押さえて伝達するようにしましょう。

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