公的資格であるケアマネジャー(介護支援相談員)は、合格率が低い傾向にあり、ここ数年も、ほとんどの年が10%台となっています。
ケアマネジャーの質が重視されるようになり、法改正によって受験資格も厳格化され、受験者数も減少傾向にあるようです。他の介護系の資格と比較しても、資格取得までのハードルは高いといえるでしょう。 今回は、ケアマネジャー(介護支援相談員)の合格率が低い理由や、試験に合格するためのポイントなどについてご紹介させていただきます。
ケアマネジャー(介護支援相談員)の試験の概要
ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要介護者の自立した生活やQOL(生活の質)の向上を支援する専門職です。要介護者のニーズを把握し、利用者本人が適切なサービスを受けられるようケアプランを作成したり、施設や事業者との連絡・調整を行ったりするなど、要介護者と介護サービスのかけはしとなる重要な役割を担っています。
ケアマネジャー(介護支援専門員)の試験の正式名称は、「介護支援専門員実務研修受講試験」といいます。資格を取得するためには、まず「介護支援専門員実務研修受講試験」に合格しなければなりません。
試験に合格した後は、すぐにケアマネジャーを名乗れるというわけではなく、都道府県ごとで実施される「介護支援専門員実務研修」を受講する必要があります。その後に介護支援専門員証の交付を受けることで、初めてケアマネジャー(介護支援専門員)としてケアマネジメント業務を行うことができるようになります。
「介護支援専門員実務研修受講試験」は、介護福祉士や看護師といった保健・医療・福祉に関する「国家資格を保有している」、もしくは「生活相談員・支援相談員等の業務に従事している」のいずれかに当てはまる方で、かつ5年以上の勤務実績がないと、受験することができません。
また、ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格自体は国家資格ではなく、都道府県が認定する「公的資格」となります。 試験の内容や試験が実施される日時は全国共通ですが、受験申し込みの手続き方法や申し込み期間等は都道府県ごとに異なるため、各自で確認する必要があります。
受験資格
以下①、②のどちらかに当てはまる方で、それに基づく業務を通算5年以上かつ従事した日数が900日以上の場合に、ケアマネジャーの受験資格を得ることができます。
①特定の国家資格保有者
医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、言語聴覚士、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、栄養士(管理栄養士含む)、精神保健福祉士のいずれかを保有し、それに基づく業務に従事している
②特定の相談援助業務に従事している者
生活相談員(ソーシャルワーカー)、支援相談員、相談支援専門員、主任相談支援員などの業務に従事している
以前は、資格の有無にかかわらず、介護等業務に10年以上従事した者であれば試験を受けることができました。しかし、ケアマネジャーの質を向上させることを目的に、平成30年からは受験資格が厳格化され、現在のような条件となりました。
国家資格を持っていない方でも、相談援助業務に一定期間従事していれば、ケアマネジャーの受験資格を得ることができます。 ただし、特定の国家資格を取得してから5年以上経過していても、1年で退職したなど勤務実績が5年に満たない場合には受験資格を得ることはできません。
試験の内容
ケアマネジャーの試験はマークシート方式で、試験内容は、「介護支援分野」と「保健医療福祉サービス分野」の大きく2つの分野で構成されています。 介護支援分野は25問、保健医療福祉サービス分野は基礎問題15問、総合問題5問、福祉サービスの知識等の問題15問の計35問で、問題数は全部で60問です。
分野 | 区分 | 問題数 |
---|---|---|
介護支援分野 | 介護支援分野に関する問題 | 25問 |
保健医療福祉サービス分野 | 保健医療サービス分野に関する基礎的な問題 | 15問 |
保健医療サービス分野に関する総合的な問題 | 5問 | |
福祉サービス分野に関する問題 | 15問 |
介護支援分野では、介護保険法に関する問題がメインとなるため、看護師や理学療法士といった医療系の資格で受験する方は、点数がとりづらいと感じる方も多いようです。
逆に、保健医療福祉サービス分野では、高齢者に多い疾患や認知症、在宅医療などに関する問題が多く出題されるため、介護福祉士や社会福祉士などの福祉系の資格の方は苦手意識を持ちやすい傾向にあります。
配点は1問1点の60点満点ですが、合格は総合得点での判断ではなく、〝各分野で正答率70%〟を合格基準とし、具体的な合格点については、その年の問題の難易度に合わせて補正されます。
また、解答方式は五肢複択のマークシート方式で、5つの選択肢から正しいものを2つ、あるいは3つを選ぶ問題となっています。 選択した解答のうち1つでも間違えていると、点数は0点となります。
ケアマネジャー(介護支援相談員)の合格率
ケアマネジャー(介護支援相談員)の合格率は福祉系の資格の中でも低い傾向にあり、過去5年をみて、最も高い合格率は21.5%、最も低い合格率は10.1%という結果となっています。 他の介護系の資格と比べても難易度はかなり高いほうで、幅広い知識が必要となります。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
第19回(平成28年度) | 124,585人 | 16,281人 | 13.1% |
第20回(平成29年度) | 131,560人 | 28,233人 | 21.5% |
第21回(平成30年度) | 49,332人 | 4,990人 | 10.1% |
第22回(令和元年度) | 41,049人 | 8,018人 | 19.5% |
第23回(令和2年度) | 46,415人 | 8,200人 | 17.7% |
ケアマネジャー(介護支援相談員)の合格率が低い理由
働きながら学習時間を確保する必要がある
ケアマネジャーの受験資格として一定期間の実務経験が必須となるため、働きながら試験勉強をするという方も少なくありません。つまり、人によっては学習時間をなかなか確保できないといった状況が続いてしまうこともあります。
例えば、国家資格である「医師」や「看護師」、「理学療法士」などは、合格率が90%前後と毎年高い傾向にあります。これは、合格ラインに到達するまでしっかり知識を備えたうえで試験を受ける方が多いためです。
受験資格を得るためには、その資格の養成施設(大学や専門学校等)で必要な課程を収める必要がある他、卒業試験にも合格しなければならないなど、国試を受けるまでにクリアしなければならない項目がたくさんあります。合格ラインに到達していなければ、試験を受けることができないのです。
しかし、ケアマネジャー(介護支援相談員)の場合は、受験資格の条件から考えても、新卒で受けるということはまずありません。つまり、社会人として働きながら資格取得を目指す方が多く、勉強に集中できる環境を作りにくいというのが、合格率が低い理由の一つとして考えられます。
また、介護保険制度は3年ごとに見直しが行われているため、常に最新の情報を得る必要があります。特に、一度ケアマネジャーの試験に落ち、また再度挑戦するとなった場合は、介護保険制度改正の内容に合わせて試験勉強をする必要があります。
解答方式が「五肢複択方式」
ケアマネジャー(介護支援相談員)の試験は、単に内容が難しいというだけではなく、試験の回答方式も、合格率が低い理由の一つとして考えられます。
試験では、1問につき5つの選択肢があり、その中から複数を解答する「五肢複択方式」となっています。解答した選択肢がどれか一つでも間違えていた場合、点数を獲得することはできません。そのため、幅広く、正確な知識が必要となります。
また、試験時間は120分となりますが、問題数は全部で60問あるため、単純計算で1問にかけられる時間は2分しかありません。 「五肢複択方式」と考えると、悩む時間はあまりないと考えられます。
ケアマネジャー(介護支援相談員)の質が重視されている
制度の改正により、「介護等業務の実務経験が10年以上あれば受験できる」という条件が外され、平成30年以降は、特定の国家資格保有や相談援助業務の一定期間以上の実務経験が求められるようになりました。それに伴い、「国家資格保有者は一部科目の解答を免除できる」という規定も廃止されています。
これは、要介護高齢者の人口が今後も増えると予想されることから、ケアマネジャーの質や専門性を向上させることを目的としているためです。 このように、試験の難易度も含め、資格取得までのハードルを上げ、ケアマネジャーの質を高くするため、あえて合格率を低く設定しているというのもあります。
ケアマネジャー(介護支援相談員)の受験者数が少ない理由
介護等業務で実務経験を満たして受験する制度の廃止
先ほどもお伝えしたように、平成29年までは、無資格の方でも、10年以上の実務経験があれば、ケアマネジャー(介護支援相談員)の受験資格を得ることができました。しかし、平成30年度に実施された受験資格の改定で、受験資格が厳格になり、介護等業務の実務経験での受験は廃止となっています。 現在は、国家資格等に基づく業務経験5年以上、もしくは相談援助業務経験5年以上のどちらかの条件を満たす方のみが受験できるようになっており、受験のハードルが高くなっています。
ケアマネジャーに魅力を感じない
施設にもよりますが、ケアマネジャーの資格を無事に取得できても、介護職員と給料があまり変わらないという場合には、そこまでケアマネジャーの仕事に魅力を感じないと感じてしまう方も多いかもしれません。 また、ケアマネジャーは、介護業務を行うというよりは、利用者とサービス事業者の間の調整役としての役割だったり、ケアプラの作成を行ったりする業務が中心となるため、仕事の内容自体に魅力を感じないという方もいるようです。
ケアマネジャー(介護支援相談員)の試験に合格するポイント
過去問や予想問題を何度も何度も解く
過去問を何度も解き、問題の出題傾向などをしっかり把握するようにしましょう。直近5年分の過去問を繰り返し説くのがおすすめです。もちろん試験の内容は毎年変わりますが、過去問を繰り返し説いていけば、出題傾向が把握できるだけでなく、自分の苦手な科目はどこなのか弱点を知るきっかけにもなります。
介護保険制度の直近の改定は把握しておく
法律が改正される時事的な要素に関しては、試験の問題として取り上げられることも多いため、3年ごとに行われている介護保険制度の改正などはしっかりと把握しておくようにしましょう。
まとめ
超高齢社会である日本は、今後、介護に対する需要が高まることが予想されるため、ケアマネジャーは将来性の高い仕事の1つと言っても過言ではありません。 現場を知るだけでなく、介護保険サービス利用者のこれからをサポートする役割をもつケアマネジャーになるためには、まず、試験に合格する必要があります。他の介護系の資格に比べ、合格率も低い傾向にあるため、ポイントや傾向をしっかり把握し、試験本番に臨めるようにしましょう。