勤務先や地域などによって異なりますが、介護士の給料は低いというイメージを持たれています。
人手不足が深刻な介護業界は、他の業種に比べて求人も多いため、介護士を目指す方だけでなく、現在、介護業界で働く方などは、実際のところ給料はどのくらいなのか、昇給はあるのかなど、気になっていることが多いのではないでしょうか。

今回は、介護福祉士の給料はどのくらいなのか、また、低いといわれている理由や、給料をアップさせるポイントなどについて解説させていただきます。

目次

介護福祉士の給料

介護福祉士に限らず、どの職種の給料も、一般的に、「総支給額」から「控除(社会保険料や税金)の合計額」を引いた「手取り金額」は、総支給額のおおよそ75~80%といわれています。

厚生労働省の「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」によれば、令和2年介護福祉士の平均給与額は「338,340円」となっています。手取り分を総支給額のおよそ75~80%と考えると、介護福祉士の手取り給与は、約25~27万円になります。

※この数字はあくまで平均から出した額であり、施設や勤務先、地域などによって金額に差は出ます。

前回の調査(平成31年)の介護福祉士の平均給与額「319,950円」と比較すると、これだけをみても、介護福祉士の給与は、上がっていることがわかります。

施設の種類ごとによる介護福祉士の平均給与額
  平均給与額(単位:円)
介護老人福祉施設 352,930
介護老人保健施設 341,190
介護療養型医療施設 321,140
介護医療院 317,120
訪問介護事業所 319,140
通所介護事業所 291,690
参考:厚生労働省「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」

また、介護福祉士の平均給与額は、勤務形態や勤続年数によって変わりますが、施設によっても差があります。

介護福祉士の給料が低いと言われているのはなぜか

厚生労働省の「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」から、介護福祉士の手取りは約25~27万円ではないかと予測しました。
25~27万円というと、そこまで低くないように感じますが、やはり、世間的には、介護職全般は給料が低いというイメージがあるようです。

なぜそのように思われているのか、また、なぜ給料が低く設定されがちなのか、以下のような理由が考えられます。

介護保険制度による介護報酬額が少ない

「事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われるサービス費用」を「介護報酬」といいます。

厚生労働省では、
「介護報酬は各サービスに設定されており、各サービスの基本的なサービス提供に係る費用に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況等に応じて加算・減算される仕組みとなっている」
と、規定しています。
つまり、「介護報酬」は、公定価格で上限が決まっているため、サービス内容や価格を施設や事業所側が自由に設定することができません。

この介護報酬の一部が介護職員の給料に充てられるため、介護職員の給料を上げるためには、介護報酬を増やす必要があります。しかし、国としては、社会保障費の拡大による財政圧迫から、介護報酬を簡単に上げるわけにはいきません。

また、利用者が増えれば介護報酬も増えますが、利用定員もサービスごとに定められているので、こちらも難しいでしょう。

介護報酬額が低く設定されていることが、事業者の収入が増えない、つまり、介護職員の給料アップの妨げになっている要因の一つだと考えられます。

人員配置の規定

サービスを提供するにあたり、施設の種類(サービスの種類)や施設の規模によって、介護職員や看護職員、生活相談員など、職種ごとの人員配置基準が設けられています。
例えば、「利用者3名につき、介護・看護職員1名配置」といったものです。
そのため、「職員の人数を減らして人件費を削減し、1人当たりの給料を上げる」といった対策をとることができません。

「内部留保」が多い

施設や企業の経営を安全に続けていくため、施設や企業の利益から社内に蓄えられる分の資金を「内部留保」といいます。「内部留保」は、何らかの理由で施設の運営継続が困難になった場合など、万が一に備えた貯蓄であるため、基本的に、職員の給与に回すことはできません。

以前、介護業界では、「特別養護老人ホーム」を運営する社会福祉法人の内部留保が多いことが問題になったことがありました。特に社会福祉法人の場合は、税金面で優遇されており、助成金や融資を受けやすいといった立場であるため、多額の内部留保があることに批判が集中していました。
この「内部留保」自体は、施設や企業にとって必要かつ重要な貯蓄ではありますが、内部留保額が増えるほど、職員への還元率が下がり、給料が低くなる可能性があるとも指摘されています。

ただ、社会福祉法人の場合、株式会社ではない為、株主配当を利益にすることができません。この点を考えれば、「内部保留」が多くなるのはやむを得ないという意見もあるため、言い切るのは難しい問題といえます。

「介護職は誰でもできる仕事」という認識

介護職は、専門性を必要とする場面も多くありながら、無資格・未経験からでも始められる職種であるため、「介護職は誰にでもできる仕事」というイメージを持たれやすい傾向にあります。
また、介護職ではない同居家族によって在宅介護を受ける方がいるというのも、「誰でもできる」というイメージを与える1つの要因なのではないでしょうか。

「働く意欲はあるが資格や経験がない」という方にとって、ハードルを感じにくい職種ではありますが、介護業界は常に人手不足といった理由から、安い給料で雇える未経験者を多く集めるという事業者も、少なくはありません。

介護業界全体では、賃金が安い傾向にあるため、医師や看護師、薬剤師など、資格がないと働けない、あるいは経験がないと働けない職業や職種と比べると、給料は低めに設定されています。
ただし、介護系の資格で唯一の国家資格である「介護福祉士」に関しては、他業種と比較しても特別給料が低いというわけではないようです。

このように、介護職の専門性が十分に理解されていないことも、給料の低さにつながる要因の一つとされています。

介護福祉士の給料アップのポイント

資格を取得する

厚生労働省の「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」による介護職員の平均給与額を保有資格別でみてもわかる通り、やはり国家資格である「介護福祉士」は、「保有資格なし」より56,050円高いという、かなり大きな差があります。 保有資格ありの中で最も平均給与額が低い「介護職員初任者研修」でも、「保有資格なし」より28,270円も高く、資格の取得が給料に大きく影響していることが分かります。

  平均給与額(単位:円)
保有資格あり 327,950
介護福祉士 338,340
社会福祉士 359,380
介護支援専門員 380,210
実務者研修 311,690
介護職員初任者研修 310,560
保有資格なし 282,290
参考:厚生労働省「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」

未経験者は、まずは資格取得から始めなければなりませんが、すでに国家資格である介護福祉士の資格を持っている場合は、さらに資格を増やしていくことで、給与アップを見込むことができます。

ある程度実務経験を積んだ方は、「介護支援専門員(ケアマネジャー)」や、介護福祉士の上位資格である「認定介護福祉士」の資格取得がおすすめです。
介護福祉士として実務経験を積んだ方は、「介護支援専門員(ケアマネジャー)」を受験することができます。

この、介護支援専門員(ケアマネジャー)の受験にあたっては、介護福祉士や看護師、理学療法士、作業療法士といった保健・医療・福祉の法定資格所有者などで、かつ、業務に従事してから一定の期間を満たした方のみに受験資格が与えられます。

介護福祉士の上位資格である「認定介護福祉士」は、国家試験ではありませんが、介護福祉士の上級資格として位置付けられているもので、通常の介護福祉士よりさらにキャリアアップを目指し活躍することができる資格です。

以前は、介護福祉士の場合は、資格を取得した後、さらに上を目指せるような資格があまりなかったため、「認定介護福祉士」を得ることで、給与アップはもちろんですが、介護福祉士として働いている方の意欲向上にも繋げることができます。 このように、「介護支援専門員(ケアマネジャー)」や「認定介護福祉士」取得による資格手当により、給与アップを見込むことができます。

役職に就く

資格とはまた別に、施設長、ホーム長、主任、介護リーダーといった「管理者」の役職に就くことで、責任は重たくなる分、役職手当による給与アップを見込むことができます。
施設によっては、管理者になると、手当てではなく基本給が上がったりするため、必然的に賞与も上がりますし、一般職員よりも昇給のペースが速くなったりする場合もあります。
役職は、収入に大きく影響する要素の一つとなります。

長く働く

厚生労働省の「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」でもわかる通り、勤続年数が長くなるにつれ、平均給与額も高くなる傾向にあります。 資格取得が難しい方や、今働いている職場に特に不満がないという方は、長く働くことで給与アップを目指すという方法もあります。

手当による収入アップ

一番手っ取り早いのは、夜勤や年末年始の勤務による手当で高収入を得ることです。夜勤手当や年末年始手当により、少ない勤務回数で高い収入が得られることから、積極的に夜勤の回数を増やしたりする方もいます。

介護福祉士の給料引き上げに関わる制度とは

介護保険制度の仕組みにより、介護職員の給料を上げることはなかなか難しいことが分かりましたが、介護福祉士の給料引き上げに関わる制度として、2019年10月に「介護職員等特定処遇改善加算」というものが創設されました。この制度は、特に現場でリーダー的な役割を担う介護職員の賃金が、全産業の平均年収より低いという調査結果から、介護職員の賃金改善などを目的としたものです。

これは、今までの処遇改善加算に加え、スキルや経験のある介護職員に対し、更なる処遇改善を行います。具体的には、勤続年数が10年以上の介護福祉士について、月額平均8万円相当が給与に上乗せされる、あるいは、年収が440万円に設定されるというものです。 職員が個人で手続きを行うものではなく、勤務する施設や事業所が申請を行います。各職員の給料には、「処遇改善手当」等の名目で支払われます。

介護業界の今後

日本は超高齢社会であり、核家族化も進んでいるため、今後も介護施設を利用する方は増えていくでしょう。

介護求人は多く、常に現場は人手不足な状態が続いていますが、利用者に十分なサービスを提供するためには、人手を増やす必要があります。

しかし、賃金としてもらえる金額が少なければ、介護現場の人出不足はいつまでたっても解消されません。

最近では、「介護職員等特定処遇改善加算」など、介護職員がより働きやすくなるよう、国としても対策をとるようになってきました。 今後も、介護の需要はますます高まることが予想されます。それと同時に、給料を含む労働環境等の処遇改善は、今後も国として取り組んでいくようですので、介護職員が働きやすくなる未来はそこまで遠くないかもしれません。

まとめ

今回は、介護士の給料の相場や、低いといわれている理由、給料をアップさせるポイントなどについて解説いたしました。

業務内容や勤務年数が給料と見合っていないと不満に思う方もいるかもしれませんが、日本の超高齢者社会による高齢者の増加に伴い、現在は、国としても、介護職の方の賃金や労働環境を改善しようとする動きがみられるようになってきています。 すでに介護職に就いている方は、新たに資格を取得すれば給料アップが期待できます。キャリアアップを目指すという意味で挑戦してみるのもいいかもしれません。

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