妊娠が分かった時、介護の仕事は続けても良いのか、どのタイミングで職場に報告すれば良いのか、悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
介護は、要介護者の身体を支えたり、利用者や利用者の家族、他職種の介護スタッフなどとやりとりする機会があったりと、身体的負担や精神的負担がかかりやすい傾向にあります。
そこで今回は、妊娠したら介護職は続けられるのか、報告までの流れや妊娠中の体に負担が少ない仕事内容などについてご紹介させていただきます。
妊娠したらまずは報告
介護職は、身体機能の低下がみられたり障害があったりする高齢者の入浴介助や移乗・移動介助、トイレの介助、体位変換など、身体に負担がかかりやすく体力を消耗しやすい業務をこなさなければなりません。
そのため、妊娠が分かった場合は、母体や胎児の健康へのリスクも考え、早めに直属の上司に報告する必要があります。妊娠初期は流産のリスクが最も高い時期であると言われているため、特に注意が必要です。 施設側は、妊娠した職員ができなくなる業務に関して、他の職員に分担する必要があります。すでに出ているシフトやこれから作成するシフト・業務内容等の調整を行ったり、産休などで人が足りなくなることを考えて求人募集をかけたりするなど、今後の見通しを立てやすくなります。
報告するタイミング
妊娠したかもしれないと思ったら、まずは市販の妊娠検査薬を使って確認する方が多いと思います。
しかし、妊娠検査薬は偽陽性が出てしまうことがあるため、陽性反応が出てもそれが妊娠であるとは限りません。そのため、妊娠検査薬の結果だけで判断するのではなく、必ず産婦人科を受診し、医師の診断を受けてから職場に報告するようにしましょう。
安定期に入るまでは流産のリスクが高く、人によってはつわりが始まってしまう可能性もあるため、報告は早めに越したことはありません。ただし、安定期に入る前の報告は、流産した場合の報告も必要となります。職場に早めに伝えるのはためらいがあるという方は、胎児の心拍が確認されたタイミングで報告するようにしましょう。
とはいえ、胎児や母体の健康が最優先です。先に直属の上司にだけ報告し、業務やシフトの調整をしてもらいながら、安定期に入った段階で職場全体に報告するといった流れが理想的なのかもしれません。 直属の上司に妊娠の報告をする際に伝えておく内容や相談しておきたい内容については、以下の通りです。
- 妊娠中の勤務(業務内容やシフト)について
- 出産予定日
- 他の職員に伝えるタイミング
- 給付金の申請手続き
- 産休・育休の取得について
介護職は妊娠しても続けることはできるのか
介護職は、身体的・精神的に負担のかかる業務が多く、赤ちゃんの成長を脅かす危険性もあるため、すぐに仕事を辞める必要がなくても、これまでと同じような業務をこなすのは難しくなります。
また、妊娠中は、つわりや立ちくらみ、貧血、動機、息切れなどさまざまな症状があらわれるようになるため、業務を続けること自体、困難となる場合もあります。 自分と胎児の状態を最優先に考え、担当医と相談しながら、仕事について考えるようにしましょう。
出産予定日の6週間前から産前休業を取得することが可能
妊娠中の勤務については、労働基準法により、出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前(98日間))から休業することが可能となっています。もちろん、これは申請すれば取得できる休業であるため、産前6週間の期限内であれば、自分が希望するタイミングで産休に入ることができます。
職種によっては、産前休業を取らずに仕事を継続する方もいるようですが、介護職の場合は、先ほどからお伝えしているとおり、身体や精神に負担がかかりやすい業務が多くあります。そのため、産前休業が取得できる出産予定日の6週間前を一つの目標として介護の仕事を継続する方もいます。 ただし、出産後の〝産後休業〟に関しては、「出産日の翌日から8週間は女性を就業させることはできない」とされているため、産前休業と異なり、本人の希望にかかわらず、すぐに復職することはできないようになっています。
妊娠中も仕事を続けるメリット
母体や胎児への健康のリスクも考え、身体などに負担のかかる業務を行うことは避けるべきではありますが、妊娠中も介護職を続ける場合、以下のようなメリットもあります。
体力低下を防ぐことができる
仕事を辞めて家で過ごす時間が増えるようになると、仕事をしている時よりどうしても動く機会が少なくなってしまいます。ですから、特に体力を必要とする介護職を辞めるとなると、体力が落ちてしまった時の差が余計大きく感じてしまうかもしれません。
出産時や出産後の子育てでは体力が必要となりますから、妊娠中の体力維持は非常に重要です。 介護職を続けることは、体力の低下を防ぐことにも繋がります。
保育園に入りやすくなる
妊娠・出産をきっかけに仕事を辞めてしまうと無職になるため、保育園の利用を申請しても、審査が通りにくくなります。
そのため、産前休業や産後休業、育休を取得しつつ、仕事は辞めずに続けていた方が、今後保育園を利用したいと考えた場合に、無職の状態より入りやすくなります。
出産手当金や育児休業給付金をもらうことができる
出産や子育てはお金がかかるため、できれば働き続けたいという方も多いかもしれません。仕事を続けていれば、収入が途切れてしまうことはないですし、申請することで給付金を受け取ることもできるため、金銭面でも助かります。
妊娠中の身体の変化について
妊娠初期(4~15週)
見た目の変化はほとんどありませんが、妊娠によるホルモンバランスの影響により、体調が急激に変化します。この時期は多くの方がつわりに悩まされます。つわりの時期は匂いに敏感になるため、妊娠中の介護業務では、食事介助中の食べ物のにおいや、おむつ交換時などの便のにおいに悩まされる方も多くいます。
あまりにもつわりの症状がひどい場合には、医師に相談するようにしましょう。 その他、お腹の張りや便秘などの症状がみられるようになります。
妊娠中期(16~27週)
つわりや不安定になりがちな体調がおさまってくる頃で、お腹のふくらみが目立つようになります。 流産のリスクが減り、母子ともに安定している状態です。安定期と呼ばれるのはこの時期以降になります。
妊娠後期(28~39週)
胎児が成長するにつれてお腹もどんどん大きくなってくるため、身体的な負担が増えるようになります。 他の内臓が圧迫されるようになるので、息苦しさを感じたり、胃の動きが低下して食べると気持ち悪くなったりするなど、食べる量が減り、妊娠後期ならではの症状が目立つようになります。
妊娠中の介護職の主な仕事内容
妊娠中の介護業務は、入浴介助や夜勤など、とにかく身体に負担がかかる業務は避けるようにします。
- 入浴介助
- 移動・移乗介助
- 夜勤 など
妊娠中は、要介護者の身体を支える業務は避けるようにします。
特に入浴介助は、身体への負担が大きいだけでなく、転倒の危険性もあるため、避けるようにしましょう。
また、施設にもよりますが、夜勤は基本的に職員1、2人の少数体制で利用者全員のケアを行います。深夜帯の勤務に関しては、母体や胎児の健康へのリスクが高いため、妊婦の方にはあまりおすすめできません。
比較的、妊娠でも身体に負担をかけにくい業務は、以下の通りです。
- 食事介助
- おむつ交換
- トイレ誘導
- 着脱介助
- 口腔ケア
- 洗濯・掃除
- レクリエーションの企画・進行
- 見守り など
ただし、つわり中はにおいに敏感になるため、食事介助やおむつ交換などは、行うのが一時的に難しい場合もあります。
また、妊娠中は精神的にも不安定になりやすいため、利用者とのやり取りがうまくいかない可能性もあります。妊娠中で情緒不安定になってしまい、「人対人」の対応が上手くできない時は、医師に相談するようにしましょう。
同じ妊婦の方でも、体調の良し悪しには個人差があるため、行える業務の範囲は人によって異なります。働く施設によっても変わってくるでしょう。
体調は常に一定ではないため、上司などには、その都度、業務内容を見直してもらいましょう。
妊娠や出産で受けられる制度やもらえるお金
産前休業
産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間以内)から、申請すれば休みを取得することができる。予定日より遅れて出産した場合でも、予定日から出産当日までの期間は産前休業に含まれる。
産後休業
本人の希望に関係なく、出産の翌日から8週間は就業することができない。ただし、産後6週間経過後は、本人が申請し、医師が認めた場合にのみ就業することが可能となる。
出産が予定日よりも遅れてしまい、産前休業の期間が伸びた場合でも、「出産の翌日から8週間」の産後休業は必ず確保される。
育児休業制度
申請の時点で以下の条件を満たしている男女のみ、原則、子が1歳まで(一定の場合は1歳6ヶ月または2歳まで)育児休業制度を利用することができる。
- 申出時点で雇用が1年以上続いている
- 子が1歳6ヶ月(2歳までの育児休業の場合は2歳)になるまでに、雇用が続いていることが明らかである
- 育児短時間勤務
- 所定外労働の制限
- 時間外労働の制限
- 子の看護休暇
- 深夜業の制限
- 不利益取扱いの禁止
- 転勤の配慮 など
出産手当金
出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までに、出産で仕事を休んだことで給与の支払いを受けなかった期間を対象に、健康保険から支給される手当て。
出産が予定日より遅れた場合は、出産日ではなく、出産予定日から数える。
出産育児一時金
会社の健康保険等の被保険者及びその被扶養者が出産した場合に、一児につき一定の金額が支給される。
育児休業給付金
「育児休業」を取得した際、一定の条件を満たした場合のみ雇用保険から支給される。
- 雇用保険に加入している
- 育休前の2年間で、11日以上働いた月が12ヶ月以上ある
- 育児休業期間中、休業開始前の1ヶ月の賃金の8割以上が支払われていない(1ヶ月ごと)
女性が多い介護業界は妊娠・出産にやさしい
介護業界は女性の割合が多いため、妊娠をしても配慮してもらえる職場が多くあります。さらに、妊娠や子育ての経験がある女性職員が多いため、妊娠中の業務内容の変更も、理解してもらいやすい傾向にあるようです。
ただ、介護業界は人手不足の傾向にあり、入浴介助や移動・移乗介助といった身体に負担がかかりやすい業務の全てを他の職員に任せることになりますから、施設の雰囲気によっては居づらいと感じることもあるでしょう。
また、これは介護職に限ったことではありませんが、職場において妊娠を理由に嫌がらせを受けるマタニティハラスメント(マタハラ)を受けてしまうケースがあります。
「休みが多い」
「業務内容の変更や休みの増加により、周囲の人に迷惑をかけている」
「妊娠するタイミングがおかしい」
などと言われ、労働契約内容の変更を迫られ、減給や仕事をもらえないといったこともあるようです。
もし、このようなマタハラを職場で受けた場合には、厚生労働省 雇用環境・均等部(室)や日本労働弁護団ホットライン、働く女性の全国センターなどの専用相談窓口に連絡をするのも一つの方法です。 身近に相談できる相手がいない方や、解決するのが難しいという方は、一度、連絡してみましょう。
まとめ
今回は、妊娠した場合の報告までの流れや妊娠中にできる仕事内容などについてご紹介させていただきました。
妊娠中も介護の仕事を続けるには、周囲の協力が必要不可欠です。妊婦になれば、自分1人の体ではなくなります。負担のかかる仕事は、無理にやろうとはせず、思い切って周囲へお願いするようにしましょう。 妊娠中の体調はかなり個人差があります。とにかく母子の健康を優先に、自分の体調と向き合いながら仕事を続けるようにしていきましょう。