少子高齢化が進み続け、介護の必要性や介護業界のサービスの需要が高まり続けている日本では、介護うつという言葉も生まれています。介護は要支援者や要介護者だけではなく、介護をする人も気を付けなければならないので、今回は介護鬱になりやすい人や防止策などを解説します。

目次

介護うつとは

そもそも介護うつ、という言葉自体聞くのは初めてかもしれません。介護うつというのは、その名前の通り介護をする上での不安や生じたストレスが蓄積し、発祥するうつ病の事を指しています。

社会人も決して他人事ではないうつ病であれば聞いたことはあるでしょうが、介護うつもこれと同じく責任感が強い人が発症しやすいと言われており、他の病気のように明確な症状が見られません。

それゆえに本人も自覚症状がなく、気づいたら介護うつになっていた、といったケースも珍しくありません。うつになったと気づきけないでいると、知らぬ間に症状が悪化していってしまい生活にも差し障る可能性が高いです。

主な介護鬱の症状

  • 慢性的な疲労感…体を酷使しなくとも常に疲労感を覚え、慢性的な無気力感でやる気が減退する
  • 焦燥感…特に理由がなくとも不安感や焦りの気持ちが湧いて落ち着かない
  • 食欲不振…健康的問題は何もないのにかかわらず、食事量が減少する
  • 睡眠障害…疲れているのに眠れない、眠ってもすぐに目が覚める
  • 思考障害…頭を上手く働かせられず、無気力で消極的になる

介護うつの原因

介護をしている人であれば、誰でもこの介護うつを発症してしまう可能性があります。なぜうつが引き起こされてしまうのか、その原因をしっかりと把握して、事前に避けられるようにしましょう。

原因①身体的な負担

まず考えられる原因は、やはりと言うべきか身体的な負担によるものです。介護というのは日常生活を送るのが難しい高齢者などを支援する、というのが基本ですが、実際に介護をしてみればする側に中々の負担がかかっていることが分かります。

赤ん坊をお世話するのとは違い、食事も入浴も生活にかかわる様々な事をサポートしますので、当然ではありますが相当に体力を消耗するものです。

もし介護に加えて自分の仕事もあるのであれば、仕事をしてその上で介護もしなければなりませんから、自分の時間も削られ睡眠時間が減少しますし、食事を摂る量も減って栄養不足につながる、といった事も考えられます。

睡眠不足や栄養不足は、脳を正しく働かせる事が出来なくなる原因となります。介護うつも、そんな体の不調によって思考力や判断力が低下した時に起こるものなのです。

原因②精神的な負担

続いては、精神的な負担が挙げられます。介護というのは当然一日二日で終わるようなものではなく、長期的に行われるケースがほとんどとなります。施設を利用する場合ならまだしも、自宅で介護をするとなればやはり大きな負担がかかります。

実際の介護の中では、長期的にやらなければならない環境下にいるせいで「いつまで介護を続ければいいのか」「いつまで自分を犠牲にしなければならないのか」といった考えが浮かび、途方に暮れてしまいやすいのです。

また、時間的制約だけではなく、要介護者が認知症だったりうまくコミュニケーションが取れないとなると、罵声を浴びせられるケースもあります。となれば、精神的に摩耗してしまうのも無理はありません。

原因③経済的な負担

身体的、精神的な負担は代表的なものですが、経済的な負担もうつの原因になり得るものです。最も適している介護の方法は、その道のプロフェッショナルである介護業者に依頼し、居宅でも施設でもサービスを利用する事です。

これであれば自分が介護をする必要はありませんし、介護そのものの質も高いですが、サービスの利用にあたっては費用が発生します。特に施設を利用する場合、高額な介護費用を支払う必要が出てきます。

余裕が無い場合には、やはり自らが介護をすることになるのですが、介護度によっては仕事を続けられない可能性もありますし、そうなると益々経済的負担が増えて介護そのものがままならなくなってしまうというケースも考えられます。

原因④頑張り過ぎ

負担の原因というよりも介護をしている人の気質の問題ですが、頑張り過ぎているのも原因になります。仮に経済的、時間的に余裕がある人が介護に当たったとしても、頑張り過ぎてしまうと鬱になる可能性は十分にあります。

特に、介護に対して強い責任感を持っている人、不安や悩みがあったとしても一人で抱え込んでしまうような性格の人の場合だと、特に頑張り過ぎて燃え尽きてしまう事でうつが発症する事もあります。

最初こそ意欲的に介護に取り組んでいたとしても、次第に介護の難しさを実感したり、見合った成果が得られないと感じた時には最初に持っていた熱意が失われ、介護に対して苦痛を覚えてしまうようになります。

原因⑤相談相手がいない

介護自体が大変なものである、というのは何となくでもイメージとしてあるでしょうし、だからこそ施設やサービスを利用するのが真っ先に思い浮かびがちですが、経済的な理由からそれができないケースも全く珍しくありません。

そして、自らの力で介護をするとなった時、相談する相手がいないというのも介護者を苦しめる要因です。介護をする生活の中で、大変でも相談する相手が居たり、協力してくれる相手が居れば心強いものです。

しかし、そんな相手が身の回りに居ないとなれば、一人で介護に当たらなければなりません。悩みがあっても打ち明けられず、協力を依頼できる人もいないというのは、身体的負担もありますが非常に孤独感を覚えるものです。

介護うつになりやすい人の特徴

介護そのものが大変というのも分かっているでしょうし、誰であっても出来る事なら介護うつになどかかりたくないと思う事でしょう。そんな中で、介護うつになってしまいやすい人にはある程度特徴が見られます。

特徴①完璧主義

まず、完璧主義な人が挙げられます。普段から几帳面なところがあり、仕事でも完璧主義な面がある人は、介護においても壁にぶつかりやすいです。というのも、完璧主義な人は「介護というのはこうするべき」といった理想を高く掲げがちです。

そういった考えを持つこと自体は全く間違いではありませんが、しかし介護は他人を相手にするものです。親族などどれだけ近しい相手であったとしても、完璧なコミュニケーションを取るというのは非常に難しいものです。

そんな中で最初から完璧に介護をしようと思っていると、自分の心身の負担を感じていてもそれを表に出さず乗り越えようとして、いつしか限界が来て気が付いたらうつになっている、というのはあり得ない話では無いのです。

特徴②責任感が強い

続いては、責任感の強い人が該当します。確かに介護というのは人を相手にするものですし、相手にするのは人の助けを必要としている高齢者がほとんどですから、責任感を覚えるのも自然な話でしょう。

しかし、こういった人ほど難しい場面に直面した時であっても協力を求めようとせず、自分の力だけでどうにかしようとしてしまいがちです。他人に頼るのが苦手で、全て自分で背負おうとするのは、完璧主義な人にも似通っています。

責任感の強さ自体は悪いものではなく立派ではあるのですが、弱音を吐くことも周りの人に助けを求めようとしないばかりに自分の事がおろそかになるのは、介護においてはうつに直結してしまうのです。

特徴③真面目・几帳面

真面目な性格の人や、几帳面な性格の人も同じく介護うつになりやすい人の特徴として数えられます。こういった人たちは、介護が上手くいかなかった時や思うように進められない時、自分を強く攻めがちです。

その上手くいかない原因や思うように進められない根本的な原因は、当人ではなく被介護者や環境にあるかもしれません。しかし、真面目な気質の人ほど自分に非があると思い込みがちなのです。

そういった時、高齢者の介護を優先して自分自身のリフレッシュや原因の解決を後回しにしてしまうので、心身のバランスを崩して気だ付いたらうつになっていた、というケースも考えられます。

特徴④融通がきかない

完璧主義な特徴の中でも触れていますが、融通が利かない人も介護を続けるのは難しいかもしれません。物事を進めるうえで「こうするべき」「こうしなければならない」といった考えを持っていると、介護をする上ではそれが邪魔になってしまう時があります。

介護をする中では、その時々に合わせて適切な対応をする事が求められます。柔軟な対応ができないとなると介護自体も思うようにいかず、考え方や価値観自体が自分を追い詰めてしまいやすいのです。

特徴⑤周囲に助けを求めない

原因の中に合った通り、自分の周囲に相談できる相手や協力してもらえる相手がいないというのは、うつになりやすいものです。そして、周りに助けを「求めない」というのも問題です。

求めないというのは、助けてもらえる相手がいないという訳ではないのに、不安や悩みごとなども打ち明けないで一人で抱え込むと見て取れます。

協力者や相談者がいないというのならばまだ問題は別になりますが、そういった環境では無いのにもかかわらず自分ですべての負担を抱え込み、誰にも打ち明けないのは自分で自分を追い詰めているのと同じです。結果的にうつとなっても、周りに気づかれにくくなります。

あなたは大丈夫?介護うつかどうかをセルフチェック

誰であっても介護うつになど最初からかかりたくはないでしょうが、何度か触れている通り実際の介護をする中でうつになってしまっても、自覚症状がなかったり誰にも気付いてもらえないケースもありますので、セルフチェックしてみましょう。

  • 寝つき
  • 体重増加(過去2週間以内)
  • 夜間の睡眠
  • 集中力・判断力
  • 目覚めが早すぎる
  • 自分についての見方
  • 眠り過ぎ
  • 死や自殺に関する考え
  • 悲しい気分
  • 一般的な興味
  • 食欲の低下
  • 食用の増進
  • エネルギーのレベル
  • 動きが緩慢になった気がする
  • 体重の減少(過去2週間以内)
  • 落ち着きがない

上記は、厚生労働省の高齢者のうつに関する16のチェック項目になります。簡易抑うつ症状尺度では、それぞれの項目で回答をし、どれを選択したかによって介護鬱症状の有無のチェックができます。

介護うつにならないための対策

介護うつは、主に在宅で介護をする際に起こり得るものです。特に介護度が上がるにつれて症状が出やすいのですが、そういった症状があると知ったうえで罹ってしまわないための対策を立てておくのも大切です。

対策①家族に相談する

まずは、家族への相談をするようにしましょう。家族で介護をしているのであれば、同じ家族という身近な相手に相談をする事で、作業分担等を行い自分の負担軽減を図るというのが最も効果的です。

自分一人だけですべて抱え込もうとすると、その負担の重さからつぶれてしまいかねません。介護は出来る人が多ければ多いほど負担は楽になりますので、最大限家族と力を合わせましょう。

対策②ストレスを自覚し発散する

自分がストレスを感じていると思った時には、必ず発散するようにしてください。ずっと介護の事ばかり考えていると、自分自身の生活や人生を疎かにしてしまいます。

特に責任感が強い人ほどそうなってしまいがちなので、ストレスさえ自覚する事が出来るのならば自分の趣味に興じる時間を用意し、発散する時間と場を設けてください。

対策③疲れた時は休む

介護うつの予防としては、休養を取るというのも大切です。ストレスを感じた時に趣味等で発散するというのも言ってしまえば休みではありますが、疲労がたまっているのであれば無理をする必要はどこにもありません。

疲れているというのを感じられる状態の内に、親戚や家族を頼ったり、身近にいないなら介護事業者を頼るなどして、自分一人だけで抱え込まないようにするのがとても大切です。

対策④介護保険サービスを利用

家族だけで介護を仕切るのではなく、専門家の力を借りるというのも時として必要です。デイサービス、ショートステイ、ホームヘルパーといったように、介護業界のプロに助けを求める事が出来ます。

施設に入らせると費用が大きくかかってきてしまいますが、在宅でのサービスであればそこまでのレベルではありません。また、ショートステイなどでは最大1か月入所させられるので、家を長期間空ける場合でも利用できるでしょう。

対策⑤介護施設を利用

もう1つ、施設を利用するというのも手段として有効です。デイサービスやショートステイなども介護サービスの一環ですが、最大限負担をゼロに近づけたいのであれば施設を利用するのが最も近い答えになるでしょう。

施設に入れてさえしまえば、あとは介護のプロによって終日ケアをしてもらえます。こちらがやることといえば面会を周期的に行うくらいですので、経済的にある程度の余裕があるなら検討すべきと言えます。

1人で頑張り過ぎずに周囲の力も借りて介護うつを防ごう

介護というのは、一人で抱え込みすぎると介護者自体がうつになってしまいます。一人だけでやるもの、というような考えを捨て、周りの力を借りて皆で行うものという意識を持って取り組むようにしてください。

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