介護と看護の違いを知っていますか?介護も看護も、高齢者や障害者をサポートするという点では共通しています。しかし、その違いを明確に理解している方は少ないのではないでしょうか。そこで、これから介護の仕事に就く方に向けて、介護と看護の違いをわかりやすく説明していきます。
介護士と看護師の違いは?
まず最初の違いは、職種です。介護の職種には、訪問介護員(ホームヘルパー)、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)などがあります。
介護の仕事には、資格がなくてもできるものから、国家資格が必要なものまでさまざまなものがあります。介護を必要とする人にさまざまな支援を行う「福祉の専門職」のひとつです。
一方、看護職には、看護師、准看護師、助産師、公衆衛生看護師などの職種があります。すべての看護職には資格が必要です。
准看護師に必要な都道府県知事免許を除き、その他の職種には国家資格が必要です。看護職は、医療を必要とする人をサポートする「医療職」のひとつです。
介護士の仕事内容・資格・給料
看護と介護では仕事の内容に違いがあります。前述のように、介護は福祉職、看護は医療職なので、主な業務内容が異なります。ここからは、介護福祉士と看護師の業務内容の違い、資格、給料事情についてご紹介します。
介護士の仕事内容
施設で働く介護職員は、主に利用者の日常生活のサポートとレクリエーションなどを行います。また、施設によっては、医師や看護師などの医療従事者、理学療法士や作業療法士などの機能訓練指導員と連携することもあります。
食事介助は、一人で食事をすることが困難な人や、嚥下障害のある人を支援・サポートする仕事です。誤嚥などの事故を防ぐために、口に運ぶ量や食べるスピードなどに配慮します。
次に、トイレの介助も大切な仕事です。トイレへの誘導→脱衣→排泄確認→身体の清拭→着衣、これがケアの流れです。排泄はデリケートな行為であり、対応を誤ると要介護者の尊厳を傷つけることになりますので注意が求められます。
入浴介助も介護師の仕事の1つですが、入浴介助には、「身体を清潔に保つ」という役割のほかに、「心身をリラックスさせ、リフレッシュさせる」という目的もあります。転倒などの事故に注意することはもちろん、血圧や体温、皮膚の状態などのバイタルにも気を配ることが大切です。
また、レクリエーションを行うことも仕事内容に含まれています。利用者のレベルに合わせて、手芸、歌、体操、簡単なゲームなどを行います。そうすることで、身体機能の維持・回復や他の利用者とのコミュニケーションを目指します。
介護士の資格
介護施設などで介護士として働く場合、資格がなくてもできることはたくさんあります。しかし、食事の準備、掃除、洗濯、買い物、薬の受け取り、見守りなどの「生活援助」と呼ばれるものが中心となります。
また、利用者の体に直接触れて、食事や着替え、服薬、入浴、排泄、歩行などの介助を行う「身体介護」については、資格がなければ一般的には補助的な仕事にしか携わることができません。
身体介護ができるようになるためには、介護福祉士の入門資格ともいえる「介護職員初任者研修」を取得する必要があります。
介護士の給料
2020年に実施された調査によると、介護職員の平均月収は21万8,000円で、これに年間70万円から100万円のボーナスを加えた合計年収は約350万円となります。日本の平均年収は2019年現在で436万円なので、介護職の年収は平均よりも低いことがわかります。
一方で、この数字は平均値なので、年収1,000万円を超える介護福祉士も少なからず存在しています。アルバイトの時給は950~1300円程度が一般的で、パート・アルバイトの場合は最低賃金に近い金額になることが多いです。
ジョブボックスの求人データによると、介護職のアルバイトの平均時給は975円、派遣社員の平均時給は1321円です。パートタイマーに比べて、派遣社員の方が時給が高いということが分かります。
介護士の働く職場
介護福祉士の就職先としては、以下のようなところがあり、それぞれ仕事内容が少しずつ異なります。その違いを知っておきましょう。
まず、特別養護老人ホームは、介護が必要で自宅での生活が困難な高齢者のための公的介護保険施設です。原則として入所期限はなく、終身にわたってケアを行います。
介護老人保健施設は、介護を必要とする高齢者を対象とした公的な介護保険施設です。入所条件は、要介護度が1~5の高齢者で、一定期間(3~6ヶ月)後に退所し、医療やリハビリを受けて自宅に戻ることを想定しています。
老人ホームと病院の中間的な施設といえばわかりやすいでしょうか。医師や看護師などの医療従事者が多く在籍していることが多いです。
介護付き有料老人ホームは、民間企業が運営しており、有料老人ホームの中では最も充実した介護サービスを提供しています。介護付き有料老人ホームには、住宅型有料老人ホームや健康型有料老人ホームなどがあります。
訪問介護施設は、その名の通り、自宅に訪問して介護サービスを提供する施設です。介護福祉士やホームヘルパーが、介護を必要とする高齢者の自宅を訪問し、身体介護や日常生活のサポートを行います。
デイサービスは、日中の時間帯に高齢者を施設に招き、食事や入浴などの介護、機能訓練、運動、レクリエーションなどを受けられるサービスです。
デイサービスセンターのほか、特別養護老人ホームや介護老人保健施設でも実施されています。ここでも介護職員は介護を中心とした業務に従事しています。デイサービスには基本的に夜勤はありません。
看護師の仕事内容・資格・給料
ここからは、看護師が行う仕事内容や必要とされる資格、さらに給料事情についてご紹介します。それぞれのポイントにおいて介護士との違いが分かるはずです。
看護師の仕事内容
看護の仕事は、医師の診察や治療をサポートし、患者さんの健康を守る仕事です。医師の指示に基づいて、患者の医療補助を行い、入院や看護のサポートをします。
看護師が行う仕事の例としては、患者への問診、体温、脈拍、血圧の測定、点滴、注射、採血、投薬、夜間のナースコール対応などがあります。
また、患者さんの手術の準備をしたり、手術中に外科医に器具を渡したりするのも看護師の仕事になります。仕事の内容は、勤務する施設や病棟、部署によって異なります。
しかし、患者さんを観察し、その症状を正確に把握し、医師に報告することは、どの職場でも共通する業務であり、看護師の役割といえます。また、看護師は、患者さんのご家族のケアや心理面でのケアも担当します。
看護師の資格
医療・保健・福祉の分野で活躍する看護師になるためには、看護師国家試験に合格し、免許を取得する必要があります。
国家試験の受験資格は、国が認めた看護大学、短大、正看護師学校、准看護師学校などの看護学校で、看護師養成課程のカリキュラムを修了することで得られます。
国家試験に合格すると、厚生労働大臣から看護師免許が交付され、初めて看護師として働くことができるようになります。
看護師の給料
看護師の仕事の平均年収は約364万円です。日本の平均年収と比べると、低い傾向にあります。また、パート・アルバイトの平均時給は1,374円、派遣社員の平均時給は1,684円となっています。
正社員の給与分布を見ると、ボリュームは285~352万円のレベルが多く、平均年収364万円はこのゾーンよりも高いレベルに位置しています。とはいえ、全体の給与レンジは285万円~823万円と比較的広いため、勤務先や経験、求められるスキルによって大きな差があることがわかります。
看護師の働く職場
厚生労働省のデータによると、2018年末の看護師約120万人のうち、73.9%が病院で働いています。その他の勤務先は、多い順に「診療所」(11.2%)、「介護保険施設等」(6.5%)、「訪問看護ステーション」(4.0%)となっています。
その他の勤務先としては、「社会福祉施設」「保健所」「助産所」「学校・養成所」「一般企業(産業看護師)」などがあり、勤務先の選択肢は多岐にわたります。
介護施設における介護士と看護師の仕事の違い
病院の看護師が患者さんに対して行う看護プロセスは、介護施設の看護師が患者さんに対して行う看護プロセスとは少し異なります。主な違いは、病院では「医療」という概念に基づき、看護師が看護補助者などの医療従事者と協力して、治療を目的とした看護サービスを提供します。
一方、介護施設は「福祉」をコンセプトに、看護師が介護士などと協力して、リハビリテーションやバイタルサインのチェック、日常の健康管理などを行います。
介護施設における介護士と看護師の役割
医療の専門性という点では、医療の知識や技術を持つ看護師は介護施設にとって貴重な存在です。介護施設で働く前に病院で働いていた看護師も多く、多くの患者さんのケースを経験しているため、介護施設で働く際にはその知識や経験を活かして活躍することが期待されます。
しかし、介護士の協力がなければ、看護師が日々の仕事の中で、看護師にしかできない医療行為に専念できる環境を作ることはできません。
例えば、日々の看護記録はどうでしょうか。患者さんのバイタルや症状をすぐに把握できる看護師と、日常のケアを含めて1日の大半を患者さんと過ごす介護士とでは、視点が異なります。
介護士は、患者さんが食べた食事の量、飲んだ水分の量、便の状態、入浴時の褥瘡のチェック、患者さんの行動の違いなど、日々の介護業務を通して様々なことに気づき、記録しています。
いずれも、ご家族をはじめ、被介護者に関わるすべての人にとって重要な情報です。看護師だけでは、先に述べたような患者さんの日々の状態をすべて把握することはできません。そのため、介護士と協力して情報を交換し、ケアを行うことで、患者さんに的確な看護を提供することができるのです。
日常業務が忙しく、すべての業務に関わることができない場合は、褥瘡処置や胃ろう処置など、看護師にしかできない医療行為を伴う業務を優先して行うこともあります。
また、介護士の協力が必要になるケースも少なくありません。介護士側も、看護師にしかできない仕事があることを理解しています。このような役割分担は、お互いの専門性を尊重し、理解しているからこそできることです。
そのような日々の中で、福祉的な視点を持っている介護者は、看護師の仕事を理解することで、医療的な視点も身につけることができるのです。
介護施設内の主な医療行為
老人ホームに入居されている方は、何かしらの医療管理が必要な場合が多いです。毎日決まった時間に薬を飲まなければならなかったり、点滴が必要な方も少なくありません。
また、医師の指示があれば、排泄物の吸引や採血などの医療行為も必要になります。看護師は、入居者の主治医や看護スタッフなど他のスタッフと協力して、安全で質の高いサービスを提供します。
介護施設における介護士と看護師の給料の違い
厚生労働省の「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護従事者と介護職員の平均給与は31万5850円です。介護職員が高い資格を取得すると、資格手当が充実します。介護のプロである介護福祉士は現場での需要が高いため、さらに高い収入が期待できます。
一方、看護職員の平均給与は37万9,610円です。介護職と比較すると、看護スタッフの給料の方が高くなっています。これは、医療行為に関わる専門性の高さによるものでしょう。夜勤をすれば、さらに収入がアップします。
看護師や介護士の再就職時の違い
ここからは、介護士と看護師それぞれの転職活動の難易度についてご紹介します。これから転職活動に踏み切ろうといている方はぜひ参考にしてください。
介護士の転職事情
まずは介護職全体の転職事情を見てみましょう。厚生労働省の職業別一般職業紹介状況によると、「介護サービス職種」の有効求人倍率は3.87倍(全職種は1.04倍)と、かなり高い数値になっています。つまり、1人に対して4件近い求人があることになります。
近年、介護職員数は高水準で推移しており、介護業界は慢性的な人手不足に陥っています。そのため、介護施設では継続的に採用を行うことが多く、経験よりも人柄を重視して採用する傾向にあります。
つまり、これまで介護の仕事をしたことがない人でもチャレンジしやすい状況が続いており、介護業界も新たな介護人材を求めています。場合によっては年齢を気にせず、豊富な社会人経験が役に立つこともあるでしょう。
看護師の転職事情
看護師の転職はそれほど難しいものではありません。介護業界と同じように看護業界でも常に看護師が不足しており、いつでも需要が高い状態にあります。そのため、求人数も安定して多くなっています。
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自分に合った職種を見定めよう
以上、介護と看護の違いについて説明しました。介護は「安全で快適な日常生活のサポート」が中心業務であり、看護は「病気やケガの治療や回復のサポート」が主な役割であることが分かっていただけたのではないでしょうか。しかし、どちらにも言えることは、「一人ひとりの生活や人生を見守り、サポートする」ということです。看護の仕事も介護の仕事も、ケアの本質は同じであることを念頭に置いた上で、自分に合った仕事を見つけてください。