日本の高齢化問題に関しては今に始まったものではなく、昔からずっと叫ばれ続けてきました。そんな中で、親の介護をしなければならない結果、退職をしてしまうケースが増加しているようです。本記事では、そのメリットおよびデメリットと、退職の前に利用できる制度などをご紹介します。
親の介護による退職や休職が増えている
親の介護が必要になった時、これまでとは違った選択を取らなければならなくなります。そんな時、退職や休職をするといった選択をする方も実は多くなっているのです。
年間でも相当数の人が介護を理由に退職している
家族の介護を理由に、退職をされる方というのは一定数存在しています。これを介護離職と呼ぶのですが、総務省統計局の調査によれば介護や看護のために離職を選択した方は、9万9千人となっています。
数字を見ればわかるようにおよそ10万人もの人が介護を理由に仕事を辞しているという事が分かりますが、男性での離職者はお由2万4千人、そして女性の離職者が7万5千人と、圧倒的に女性側の離職者数の方が比率として多くなっています。
また就業状態別の離職者を見ると、調査した時点で有業者が2万5千人という事で、平成24年に行われた同調査よりも増加しています。この内、管理職や熟練者と呼ばれる働き盛りの中高年の方が多く職を離れているのです。
退職で最も多いのは介護と仕事の両立が難しいという理由
そんな介護離職で仕事を辞める際の一番の理由となっているのが、介護と仕事を両立させるのが困難であるというものです。令和元年に行われた調査研究事業では、その理由が59.4%とおよそ6割が同一の答えだったのです。
それに次いで、介護をする家族・親族が自分しかいなかったためというのが17%、自分の心身の健康状態が悪化したためというのが同じく17%台となっていました。
介護は時間を要するため、通常の労働時間と調整することが難しいケースがほとんどです。介護をするためには仕事だけではなく当然家族の面倒を見るためのスケジュール調整が必要であり、これが仕事との調和を難しくします。
働きながら介護をしている人もいる
この様に介護を理由にした離職者は増加傾向にあり、10万人近くが職を離れているのは事実なのですが、その一方で働きながら介護を実践している方というのも決して少なくはありません。
15歳以上人口で介護をしている人は合計627万6千人とされていますが、この内有業者が346万3千人いるという結果になっていますので介護をしながら働いている方は半数以上いるわけです。
約10万人近い人が介護を理由に退職という選択を取っている訳ですが、それぞれに事情があるのは当然といった中で半数以上が介護をしつつ仕事に就き続けている事から、工夫や環境次第では離職せずに介護ができる可能性も十分にある事が分かります。
親の介護を理由に退職することのメリット
家族の介護をしなければならないために退職をするという選択肢も、勿論間違っているなどという事はありません。そちらを選択した方が良いといったケースもあり、メリットについてまずは解説していきましょう。
メリット①介護にかかる費用の節約になる
まず挙げられるのが、介護に関わる費用を節約できるというものです。介護というのは家族で行うだけではなく、介護サービスを利用することでも可能となります。しかし、サービスを利用する以上はどうしても金銭的負担が発生してしまいます。
介護サービス自体も現在では形態が様々存在していて、訪問介護からデイケアなどのデイサービスを始め、有料老人ホームへの入居といったものもあります。選択肢が豊富であり、利用すれば介護に関する負担の方は軽減できます。
しかし、費用面での負担が発生するのは事実です。これを、離職することで自分が介護をする側に回ることによってサービスを利用しない、もしくは最低限に抑えられるので、数十万円から数百万円の費用を抑えることにもつながるでしょう。
メリット②負担が減り精神的に楽になる
もう1つ、負担を減らして精神的に楽な状態で介護をすることができるのもメリットに数えられます。家族の介護は時間とエネルギーを多く必要となるのがほとんどであり、離職することで家族の介護に専念する時間を確保できます。
仕事と介護の両立は非常にストレスフルな状況になることは容易に想像できるでしょう。ここで離職するという選択肢を取ることで、仕事に関するストレスを減少させ心の余裕を持つことができます。
勿論介護が楽であるという訳ではありません。介護ならではの困難なこともあるでしょうが、それでも仕事をしながら行う場合よりもはるかに負担が楽である事は事実でしょう。
また、専念することによって家族をほったらかしにしないという罪悪感など、精神的な部分も非常に楽になるでしょう。仕事をしていると介護が当然できませんが、専念することで精神的負担を減らすことにもつながるのです。
親の介護を理由に退職することのデメリット
この様に、介護離職をするのはそれなりの利点があるからこそ選択をされている方がおよそ10万人の中でも決して少なくないと思われます。勿論、仕事を辞する以上デメリットも出てきますので、そちらも考えなければなりません。
デメリット①収入源がなくなる
まず真っ先に考えられるであろうデメリットが、収入源が減ってしまうというものです。離職することで、通常の給与や福利厚生の恩恵を受けることができなくなります。これは、生活費や家族の支払いを賄うための主要な収入源を失うことを意味します。
収入が途絶えることで、生活費や医療費、介護にかかる費用などを賄うための財政的プレッシャーが増加します。これにより、家計の安定性が損なわれ、借金のリスクや財政的な不安が高まる可能性も考えられます。
勿論メリットの中でも挙げた介護に関する費用削減につなげることはできるでしょうが、それでも親の年金やそれまでの貯蓄に金銭面の大部分を頼ることになるので、常に経済的不安は拭えないままとなることは容易に想定できます。
家族の介護を理由に離職する際には、慎重に計画し、財政的な影響を評価することが重要です。可能な限り、離職前に収入の代替手段や財政的なサポートを事前にも検討していく必要があるでしょう。
デメリット②再就職が難しくなる
続いては、再就職が困難になってしまうというデメリットになります。離職期間が長くなると、職歴にギャップが生じます。特に一度離職した後、適切な経験やスキルを維持・向上させる機会を逃すことになり職を新たに得る可能性が減ってしまうのです。
離職からの再就職が難しくなる理由の一つは、年齢です。年齢が上がると、企業側から見て、経験を積んだり長期間働ける可能性が低いと判断されることがあり、若い応募者に対して競争的な不利な状況になることがあります。
介護離職をしてからの服飾率に関しては、三菱UFJリサーチによると離職前と同様の正社員として復職できたのは49.8%、すなわち半数にも満たないという数値になっているのが分かります。
デメリット③将来への不安によるストレス
家族の介護を理由に離職することは、多くの人にとって大変な決断の上での行動であり、家族の介護をすることはもちろん重要です。しかし、離職には将来への不安や精神的な負担が増えてしまうのもぬぐえないデメリットです。
離職することで、収入が減少してしまうのは先に紹介した通りです。これは将来の生計を立てる上で不安を引き起こす大きな要素であり、家族の介護にかかる費用や日常生活の費用を賄うためには、新たな収入源を見つける必要があるかもしれません。
精神的な負担や不安で行くと、介護を終えた後の自分がどうなってしまうのか、そして介護そのものの負担も決して少ないものではありませんから、介護をする側がメンタル疾患を患ってしまうことも考えられます。
デメリット④社会とのつながりが急に減る
職場は社会的なつながりを認知する場所でもあり、離職することで社会的な孤立感が増す可能性があります。これは精神的な負担を引き起こす大きな要素になるかもしれません。
家族の介護は非常に重要な責任であり、個人や家族にとっては避けられない場合もあります。介護の必要性が高い場合、家族の健康と安全が最優先であるべきなのですが、仕事をどうするのかは環境や場合によって慎重に選択をしたいところです。
親の介護を理由に退職する際の勤務先への伝え方
退職を伝える前に、介護の計画を立ててどのように親をサポートするか、どれくらいの期間必要なのか、介護が必要なのかを考えてください。これにより、退職の理由とプランを明確に伝えることができます。
できるだけ早い段階で雇用主や上司に伝えることが大切です。これにより組織が代替策を検討し、退職をスムーズに処理できるようになります。タイミングとしては、即日も不可能ではありませんが諸々を考えると数ヶ月前辺りが理想的でしょう。
実際の相談に関しては、親の介護がなぜ退職の理由となるのかを説明しましょう。具体的な状況や介護が必要な期間を説明し、なるべく詳細に伝えることが大切です。
介護のために退職することが必要であることを説明したら、できるだけ協力を申し出ましょう。退職の日程や業務の引継ぎについて協力する姿勢を示すことも、スムーズな退職につながるので助かります。
親の介護で退職前する前に利用したい制度について
介護を理由に退職をする方も、決して珍しいものではない事がお分かりいただけたかと思われます。そんな中で、実際に退職を選択する前に利用したいいくつかの制度があります。
利用したい制度①介護休暇
まずは、介護休暇になります。こちらは、労働者が家族や親戚などの介護を行う必要がある場合に、一時的に仕事を休むことができる制度のことです。主に、家族や親戚の介護を必要とする労働者を対象としています。
対象となる介護者や介護家族については対象家族を介護する男女の労働者で、対象家族は配偶者 )、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫までと定められています。
休暇という事で対象家族が1人だと年に5日まで、2人以上の場合には年10日までとなります。手続きは書面提出だけに限定されず、口頭での申請でも有効になります。
利用したい制度②介護休業
続いては、介護休業です。こちらは「労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業」とされ、要介護状態は負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態と定められています。
こちらも休暇と同じく、対象は家族の介護を必要とする配偶者、親、子供、もしくは同居している家族など法的に定義された特定の関係にある人です。介護対象者の健康状態や介護の必要性に応じて利用できます。
対象家族一人につき3回まで、通算93日まで休業を行う事が可能であり、また休暇同様従業員は一部の給与を受け取ることができ、雇用関係が解消されないように法的保護が提供されます。
利用したい制度③勤務時間の制限
勤務時間制限を利用するという手もあります。1回につき所定外労働と時間外労働で1か月以上1年以内の期間、深夜業の場合には1か月以上6か月までの期間に残業を制限することができます。
早い話が、残業をすることなく定時での仕事を終了させる事が可能になるという制限になります。こちらについては入社1年未満や1週間の所定労働日数が2日以下など立場によっては事業者側が拒否することも可能なので事前に用件はチェックしておきましょう。
利用したい制度④短時間勤務等の措置
勤務時間短縮など制限を利用することも出来ます。要介護状態にある家族を介護するために所定労働時間の短縮等ができるというもので、短時間勤務、フレックスタイム、時差出勤など様々な形態があります。
対象家族1人につき利用開始の日から連続する3年以上の期間で1回以上取得、利用が可能です。連続3年間利用することも出来ますし、上記の休業や休暇と合わせてその前に利用するといったことも出来ます。
介護と仕事を両立させるためにできることとは
家族の介護のために仕事を辞めるというのも立派な選択肢ですが、将来や経済的な面を考えるとできる限り仕事を続けたいという方も多いでしょう。最後に、介護と仕事の両立のためにできる事をいくつかご紹介します。
介護保険外サービスを利用する
まずは、介護保険外サービスを利用することです。これは、日本の介護保険制度に含まれていない、または介護保険でカバーされない介護サービスや支援サービスのことです。
居宅介護サービス、デイケアサービス、ショートステイといったものなどが該当しています。介護保険外のサービスを活用することで、介護を必要とする家族のサポートを確保しながら自分の仕事を継続できます。仕事を辞めなくても、家庭の介護負担を軽減できるわけです。
周囲とよく相談する
続いては、周囲との相談をよくしておくことです。家族の兄妹や親族などに協力が仰げそうならばしておくべきですし、近所の方にも顔出しをしてもらうといったように無理のない範囲内での協力を申し出てみましょう。
家族や親族との関係を良好に保っておく
介護と仕事を両立する場合、家族との関係も良好にしておくべきです。自分一人だけでは至難の業になってしまいますので、相談と協力を仰いだ時にそれができるよう、日々関係を崩さないようにするのもとても大切なのです。
レスパイトケアを活用する
レスパイトケアは、主に介護者が休息を取るために提供される介護サービスの一種です。介護者が短期間の休息を取るために、患者や被介護者を一時的に専門的な施設やサービスに預けることができます。
レスパイトケアでは、介護者が休暇中でも患者や被介護者のケアが継続されます。専門のケアプロバイダーが提供するため、医療的なケアや日常生活のサポートが継続されます。
親の介護による退職は慎重に考えて決定しよう
介護による退職ももちろん選択肢の1つではあります。しかし、制度をフルに利用するなど工夫次第では仕事を辞めることなく介護ができるケースも十分あるので、是非とも慎重に考えてみてください。