浴室に行くのが困難な方の入浴をサポートする「簡易浴槽」という福祉用具があります。今回は、入浴を支援するための浴槽の使い方や注意点を解説します。簡易浴槽は購入だけでなくレンタルも可能なので、積極的に利用して入浴介護の負担を軽減していきましょう。
簡易浴槽とは?
高齢者の入浴にはさまざまな役割と効果があり、生活の質の向上に欠かせません。心身に良い影響を与える入浴は、毎日でも行いたいものです。
浴槽はポータブル浴槽とも呼ばれ、空気圧式、折りたたみ式、スタンド式などで簡単に移動でき、居室での入浴を容易にするものです。身体の不自由な方でも、浴室まで移動することなく、できるだけ簡単に入浴することができます。
入浴は体を清潔に保つだけでなく、新陳代謝やリラックス、快眠を促す効果があるので、なるべく毎週入浴することが望ましいと言われています。
食事と同様、高齢者にとって入浴は大切な気分転換であり、楽しみでもあります。一人で外出できない高齢者は、なおさら入浴を楽しみにしているのではないでしょうか。
髪や体を洗うことによるマッサージ効果、入浴後の爽快感、湯船に浸かることによる開放感など、全身がリラックスし、日常生活に変化と活力を与えてくれるのです。
簡易浴槽の使用対象者
簡易浴槽を利用される方は、主に要介護度が高く、浴室での入浴やデイサービスでの外出が困難な方です。浴槽を利用するメリットは、自宅で安全に入浴できること、どんな人でも入浴できることです。
簡易浴槽は訪問入浴で利用されるケースが多く、その場合は要介護1~5の認定を受けた方や、特定の疾病で介護が必要な方が利用されます。
介護時の簡易浴槽の使い方
ここからは、簡易浴槽への介助方法の仕方を見ていきましょう。浴槽のセッティングの方法、ベッドに寝かせたまま移動させる方法など、しっかりと押さえておきましょう。
簡易浴槽のセッティング方法
浴槽を使用する場合、まず給排水の問題を考えなければならないでしょう。ホースの距離が長くなればなるほど、お湯の温度は低くなります。そのため、給排水がスムーズに行える場所を利用することをおすすめします。
浴槽を使用するためには、床やベッドから浴槽に移らなければなりません。そのため、家族で協力してケアを行う必要があります。
簡易浴槽への入浴時の介助方法
まず、折りたたみ式の場合、ベッドに寝たまま移動させる側のベッドレールをとります。体の下にすべり台を置き、上半身と下半身の2人の介助で浴槽に移します。このとき、入浴中で衣服をすべて脱いでいるため、プラスチック部品との摩擦による皮膚の裂傷に注意が必要です。
2つ目の方法は、空気圧式浴槽を使用する方法ですが、移動させる手順は折りたたみ式と同じですが、体を浴槽の上に移動させたあとに、浴槽を膨らませることになります。いずれの方法も、介助者の負担を軽減するための「簡易リフト」を使用することをおすすめします。
簡易浴槽を導入する時の注意点
浴槽を設置する際の注意点として、「換気が可能かどうか」という点が挙げられます。換気扇や窓などによる換気ができていないと、室内に水蒸気がたまってしまいます。
さらに、浴槽を選ぶ際、空気圧式の浴槽の場合は、浴槽に穴が開いていないか確認してから使用するようにしてください。もう一つの注意点として、浴槽を使用する際は、手早く入浴することに気をつけましょう。
簡易浴槽には「暖房」機能がないため、適温を保つことが難しくなります。脱衣や着替えに必要なもの(タオル、着替え、腰掛ける椅子など)はあらかじめ用意しておきましょう。
熱や血圧が平熱より高い場合は、無理せず入浴は延期するようにしましょう。また、入浴中は、高齢者の顔色に注意し、変化があればすぐに中止するようにしてください。
また、入浴の際は介助対象者から目を離さないように注意してください。簡易浴槽の中には、通常の浴槽のように全体が硬い素材でできていないものもあります。
不用意に体を傾けたり、一部分に体重をかけたりすると、浴槽の形が崩れるだけでなく、要介護者の体勢が崩れてしまうこともあります。事故を防ぐためにも、入浴中は要介護者から目を離さないように十分注意しましょう。
簡易浴槽の選び方のポイント
それでは、簡易浴槽の選び方についてご紹介します。浴槽は様々な種類が販売されており、よく検討した上で選ばないと失敗してしまうこともあります。自分の家に合ったバスタブを選ぶにはどうしたらいいのでしょうか?ここでは、浴槽を選ぶ際の3つのポイントについてご紹介します。
選び方①利用場所
利用する場所を確認してからおくのが最初のポイントです。浴室から遠い場所、または水源から遠い場所で使う場合、浴槽への水の入れ方、抜き方が問題になります。
設置場所はリビング等の広い場所を考える方が多いと思いますが、浴室の浴槽からお湯を汲む場合、ホースが長くなり、温度が下がってしまうことがあります。
そうなると、快適に入浴することができません。あらかじめ浴槽の特徴を考慮して、どこで使うかを検討することが大切です。
選び方②収納のしやすさ
簡易介護浴槽を選ぶ際は、空気圧式でなく硬い素材のものでも、使わないときは簡単に立てて収納できるものを選ぶとよいでしょう。自宅まで持ってきてもらう場合は収納する必要はありませんが、購入する場合は収納しやすいものでないと片付けに困ります。
そのため、コンパクトな空気圧式から硬い素材の折りたたみ式まで、収納スペースに合わせたものを選ぶ必要があります。自宅の収納スペースを確認し、どのタイプを購入するか決めましょう。
選び方③介助者の負担
浴槽の形状は、介助者が入浴や体を洗うときに負担にならない高さに設定する必要があります。浴槽が低すぎると、介助者が腰をかがめることになり、腰を痛める可能性が高くなります。また、浴槽が深すぎると、浴槽への出入りに手間がかかります。
環境が整っていても、入浴介助は身体的負担が大きいので、高さや浴槽の深さの設定、手すりの設置など、少しでも負担を減らすための工夫を考えましょう。
簡易浴槽はどこで購入できる?
では、そんな浴槽はどこで購入できるのでしょうか。簡易浴槽は、各福祉施設やインターネットなどで購入することができますが、それぞれの利用の仕方によって覚えておきたいポイントがあります。
簡易浴槽の購入方法
インターネットでは比較的安価な商品が多く購入しやすいですが、実際に商品を見ることができないので、思っていたものと違うということもあるので注意が必要です。
一方、福祉店舗では、インターネットに比べると価格は高めですが、福祉の専門家に相談しながら、自分の希望にあった浴槽を購入することができます。
また、福祉用具の購入には、購入者が全額を負担し、自治体に申請する償還払いという制度があります。ただし、都道府県が指定した事業者以外から購入した場合は償還払いが適用されないので、販売元に確認することが必要です。
どちらの方法もメリット・デメリットがありますが、長く使うことを考えると、福祉用具専門店での購入がおすすめです。
購入には介護保険が適用される?
簡易浴槽は、特定福祉用具販売対象商品です。そのため、介護保険を利用することができます。利用者が浴槽の代金を全額支払った後、代金の9割(一定以上の所得のある人は8割または7割)が介護保険から払い戻されます。これを償還払いと言います。
この制度を利用すると、例えば、簡易浴槽を70,000円で購入した場合、利用者負担は7,000円となります。4月1日から翌年3月末までの1年間に購入できる限度額は10万円で、利用者負担が1割の場合、最大3万円まで給付されます。
簡易浴槽はレンタルできる?
要介護者が住み慣れた地域で自立した日常生活を送るための機器を福祉用具と呼び、原則として「レンタル」で使用します。
ただし、他人が再利用することに心理的抵抗が強いもの(例えば、入浴や排泄に関するもの)や、使用により原型や品質が変化して再利用できないものは、「特定福祉用具販売」の対象となり、購入して使用しなければなりません。簡易浴槽もその対象の一つとなっています。
利用者や介助者に合った簡易浴槽を導入しよう
このように、簡易浴槽は身体の不自由な方が自宅で入浴しやすくなる福祉用具ですが、使用する際には様々な注意が必要です。自宅での簡易浴槽での入浴が困難な場合は、介護保険を利用して訪問入浴を利用することもできます。
介護が必要な方にとって清潔な状態を保ったり、リラックスできる大切な時間をしっかり確保するためにも、介護対象者と介助者両方にとって良い方法を考えることが大切です。