昼夜問わず24時間体制のサービスを提供する介護施設は、「夜勤」が辛そうというイメージが強い方も多いのではないでしょうか。しかし、「夜勤」だからといって悪いことばかりではありません。有給をとらなくても日中の用事を済ませられますし、「日勤」にはない「夜勤手当」もつきます。
今回は、生活のリズムを保つための夜勤前の過ごし方や注意点についてご紹介したいと思います。
介護職の夜勤とは
入所型施設の場合は24時間体制で利用者をケアする必要があるため、一般的には、「日勤」「早番」「遅番」「夜勤」に分けて介護職員のシフトが組み立てられています。
夜勤時間は施設によって異なりますが、だいたい16時~18時の間に勤務開始、次の日の朝10時前後に勤務終了となるところが多いようです。
夜勤の主な業務は、夕食の準備・食事介助から、イブニングケア、就寝中の定期的な巡回と安否確認、起床後の朝食の準備・食事介助までとなります。
イブニングケアとは、何か特別なケアを指すものではなく、利用者の快適な睡眠のため、夕方から就寝前にかけて行われるケアのことで、具体的には、歯磨きや着替え、トイレ介助・おむつ交換など、就寝のための準備をいいます。日勤と夜勤で状況は異なりますが、業務自体が全く異なるというわけではありません。
施設によって異なりますが、日勤・夜勤それぞれの大まかなスケジュールは以下の通りになります。
8:00~ | 出勤・夜勤の職員から申し送り・引き継ぎ 服薬介助、口腔ケア、排泄の介助等 |
---|---|
9:00~ | 朝礼、居室の掃除等 |
10:00~ | 入浴介助 活動(体操や機能訓練、レクリエーション等の実施) |
12:00~ | トイレ誘導、食堂誘導 昼食の準備・食事介助 服薬介助、口腔ケア、排泄介助等 |
13:00~ | 休憩45分頃 |
14:00~ | (運動など)活動 |
15:00~ | おやつ提供など |
17:00 | 退社 |
17:00~ | 出勤・日勤の職員から申し送り・引き継ぎ 排泄介助等 |
---|---|
18:00~ | 夕食の準備、食事介助 服薬介助、口腔ケア、排泄介助等 着替え等の就寝準備 |
21:00~ | 消灯 巡回(安全確認等) 必要に応じて、体位変換や排泄介助・おむつ交換等を行う |
23:00~ | 交代で仮眠 巡回、必要に応じて排泄介助等 |
4:00~ | バイタルチェックなど |
6:00~ | 起床介助、朝食の準備・食事介助 |
8:00~8:30 | 排泄介助、日勤の職員に申し送り・引き継ぎ |
就寝時間になっても眠れない方や徘徊する可能性のある方、また、利用者がベッドから転落したり夜中に急変したりする可能性もあるため、就寝時間の間、職員は定期的に巡回し、利用者の状態と安全を確認します。
自分で寝返りを打てない寝たきりの方もいるため、褥瘡予防として就寝中の体位変換を行います。
また、トイレや体調不良等でナースコールが鳴ることがあるため、その都度対応していきます。夜勤の職員は、利用者の就寝後から朝までの時間帯に、介護記録などの事務業務や、交代制で食事休憩や仮眠を取ります。
夜勤は交代制の勤務形態で、多くの介護施設では、1日を「日勤」と「夜勤」の2つで分ける2交代制をとっていますが、中には、1日を「早番」「遅番」「夜勤」などのように、3つの時間帯に分けてシフトを組む3交代制をとっているところもあります。 夜勤は、16時~17時あたりに出勤し、翌日の10時くらいまで勤務する「16時間夜勤」と、21時~23時あたりに出勤する「8時間夜勤」の大きく2種類があり、3交代制の場合は8時間夜勤となります。16時間夜勤の場合は、夜勤明け当日の翌日は休日にするシフトを組む必要があります。
介護職の夜勤に対する世間的イメージ
「夜勤」は、普通なら寝ている時間帯に勤務するうえ、日勤よりも勤務時間が長く、配置される職員も少ないため、体力的・精神的にきついこともあります。
特に「介護職の夜勤」であれば、「過酷」なイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
確かに、夜勤の時は一時的に生活が不規則になりますし、夜勤明けの日の翌日から日勤のシフトが入っていたり、あるいは連続夜勤になっていたりする場合もあります。施設によっては、夜勤は一人だけという、いわゆる「ワンオペ」状態になっているところもあるので、このような状態で、過酷と感じてしまうのは、仕方がないのかもしれません。
しかし、テレビやネットニュースなどの介護業界の深刻な人手不足の特集が、「夜勤は過酷」というネガティブなイメージを余計大きくさせている可能性も否定はできません。
夜勤明けの日は休日としてカウントされませんし、その翌日は法定休日となるため、翌日から労働者を出勤させることは認められていません。
施設によっては、日中よりも夜の時間帯の方が落ち着いているところもありますし、夜勤手当が付いたり、夜勤明けは日中の時間を自由に使えたりするので、あえて夜勤を希望する方もいます。
介護職の夜勤手当
夜勤の勤務時間は施設によって異なりますが、労働基準法では、「午後10時から午前5時」の時間帯に働く労働者には、割増賃金(通常の給料の1.25倍以上)の支払いが義務付けられています。深夜割増賃金が25%を下回ることは法律で禁止されています。
深夜割増賃金以外に、「夜勤手当」というものがありますが、夜勤手当の場合は、法律上、支給は必須ではありません。対象となる時間や設定金額も任意のため、夜勤手当の支払いの有無や金額は、介護職員として働く際に、施設や事業所の待遇の良し悪しを判断する材料の一つにもなります。
給料はもちろん、夜勤手当の額も施設や職員が持っている資格などによって異なりますが、日本医療労働組合連合会の「2020年介護施設夜勤実態調査結果」によると、正規の介護職員の場合の平均手当額は、「6,632円」(2交代制の場合)となっているようです。
また、日勤が一切なく、夜勤のみで働く「夜勤専従」という働き方もあります。夜勤専従の場合は、1勤務○円という日給制で設定されていることが多いようです。
特に老人ホームといった24時間体制で介護を行っている施設では、「夜勤専従」で職員を募集しているところもあります。
金額は地域によっても差が出てきますが、東京都の夜勤専従の募集を例に出すと、看護師・正社員の場合は、日給3.5~4.5万円で募集している施設が多い傾向にあり、介護職員初任者研修やホームヘルパー2級といった方は、アルバイト・パートとして募集しているところが多く、日給2.5万円前後で募集されています。
特にパートや派遣社員として勤めている方にとって夜勤専従は、日中と同じ勤務時間であるにも関わらず、出勤日数が少ないわりに高い収入を得られるので、メリットが多いといえます。
介護職の夜勤前の過ごし方
「夜勤」は、本来、人が寝ている時間帯に働くことになるため、どうしても、日中の勤務より、身体的に負担がかかりやすくなります。 体調万全で夜勤を乗り越えるために、質の良い睡眠と生活リズムを意識して夜勤前を過ごすようにしましょう。
十分に休養をとる
深夜の3時から6時にかけては最も睡眠が必要な時間帯とされており、眠気が強くなって作業能率も著しく低下するとされています。そのため、普段は慣れている作業でも、ミスを起こしてしまう可能性が高くなります。この時間帯に仮眠を取れれば良いのですが、多くの施設では休憩時間があらかじめ決まっているため、夜勤前は十分に休養をとっておく必要があります。
ただし、寝だめをしようとしてあらかじめ長時間の睡眠をとっても、かえってその後の睡眠の質を下げてしまい、疲れやすくなる他、生活リズムが乱れてしまう原因にもなります。
睡眠というのは、本来、身体や脳を休ませるためにあるものです。
例えば、夜勤が終わった後で疲れが溜まっている時や、睡眠不足が続いた時の長時間の睡眠は、疲労の軽減にとても効果的ですが、疲労がたまる前に長時間睡眠をとったところで、その後の睡眠の必要性がなくなるというわけではありません。
特に、日勤と夜勤をどちらもやっている方の場合は注意が必要です。
夜勤前の睡眠は重要ですが、普段より極端に長い睡眠時間は避けるようにし、無駄な外出は控えましょう。家でゆっくり過ごすなど、夜勤に備えて十分な休養を取りつつも、いつもと変わらない生活リズムで夜勤前を過ごすのが理想的です。
寝付けない場合は無理に寝ようとしない
夜勤に備えて寝ておきたいのに、全然眠くならないという日もあると思います。夜勤前の睡眠は重要ですが、無理に寝ようとするとストレスが溜まってしまう原因にもなるため、自分に合うリラックス方法で過ごすようにしましょう。
眠れなくても、ただ横になるだけで十分に身体を休めることはできますし、人によっては、あえて軽い運動を行い、シャワーを浴びて気分をスッキリさせるという過ごし方をする方もいます。
何が合っているかは人によって異なりますから、眠れない場合の過ごし方なども考えておくと良いかもしれません。
食事をしっかりとっておく
夜勤の勤務中、休憩時間に食事をとることは可能ですが、深夜の食事は胃に負担がかかったり、肥満の原因になったりするため、勤務前にしっかり食べておくことをおすすめします。夜勤・日勤にかかわらず、食事はなるべく同じ時間帯にとるようにしましょう。できれば夜食は控えた方が良いのですが、特に16時間夜勤の場合は、出勤してから休憩時間までに時間が空くため、何も食べずに過ごすというのは難しいという方も多いと思います。
休憩時間に食事をとる場合は、軽食で済ませることをおすすめします。 ただし、糖質の高い食べ物は、血糖値が一気に上昇し、強い眠気や倦怠感を引き起こしてしまうため、注意が必要です。
介護職の夜勤前の過ごし方の注意点
夜勤前の睡眠・仮眠前は、スマートフォン等の操作を控える
夜勤前の睡眠・仮眠前は、スマートフォン等の操作を控えるようにしましょう。ブルーライトを長い時間浴びてしまうと、睡眠ホルモンの「メラトニン」の分泌が抑制されてしまい、脳が「今は昼である」と勘違いして、寝つきが悪くなったり、起きるのが辛くなったりなど、睡眠の質を低下させる原因となります。
寝る1時間前からスマートフォンの操作を控えるようにしたり、ブルーライトをカットする効果のある画面シールやメガネを使用してみたりなど、質の良い睡眠がとれるように意識した生活を心がけるようにしましょう。
胃を刺激しない食事を心がける
夜勤前にしっかり食事をとっておくことは大切ですが、食べすぎには注意が必要です。
栄養バランスの良い食事を心がけることはもちろん、脂っこいものや味の濃いもの、香辛料が含まれているものなど、胃に負担がかかる食事は避け、なるべく消化の良いものを食べるようにしましょう。
日中より人数が少ない夜勤によって、施設の安心安全が保たれている
入所型の介護施設では、切れ目のない24時間体制の介護サービスの提供が求められます。先ほどからお伝えしている通り、夜勤は、本来は人が寝ている時間帯での勤務となるため、日勤よりも身体に負担がかかりやすく、体力が必要となります。施設では、いつ何があってもおかしくない高齢者を相手にしていますから、就寝中といっても常に見守りが必要です。
また、定期的に巡回をしていても、トラブルを完全に防ぐというのは難しいため、急変時の対応など責任が重いと感じる仕事もあると思います。
しかし、入所型の介護施設は、夜勤があるからこそ、24時間体制でサービスの提供が可能になっています。夜勤の介護スタッフのおかげで入居者の方は安心して生活することができますし、利用者の家族も安心して預けることができるのです。
まとめ
今回は、介護職の夜勤前の過ごし方や、注意点などについてご紹介させていただきました。
「夜勤者」のサービスがあるからこそ成り立つ24時間体制の安心安全の施設介護。万全な状態で「夜勤」をむかえるためにも、日頃の体調管理はしっかり行いながら自分に合った夜勤前の過ごし方をみつけ、生活のリズムを崩さないように心掛けましょう。