身内の介護は、各種のサービスを活用する事でコストカットが出来ますが、料金がかさみます。そんな時にお勧めなのが2つに世帯を分ける事で、介護費用等を節約する事が出来る対策になります。今回はそんな制度の中身や、得られる利点、デメリットなどに関しても解説します。
世帯分離とは?
制度についてまず解説すると、元々1つにまとめていた戸籍上の世帯を別々に分けるものです。大抵は親子間で分けるのが一般的となっていて、住民票に記載する文についてもそれぞれという形になる為、相応に手続等も行います。
確かに手間が生じるものではありますが、ケアを要する高齢者が身内に居る場合には多くのメリットを得られる制度でもあります。ケアを要する身内と住んでいる、認知症の身内と一緒に住もうとしているといった場合には、検討を推奨されます。
世帯分離のメリット
世帯の分離は、それぞれの世帯主が独立して家計を営んでいるという条件の元、手続きを行えば可能になります。これは、介護者が必要な家族にとって多くの利点をもたらすことになります。
メリット①介護費用の自己負担額を軽減
まず真っ先に挙げられるのは、介護費用を安くできるという事です。介護サービスを利用する際には、費用の一部を利用者が支払う形になります。負担する額については高額介護サービス費制度で上限が設定されています。
この限度額を超えた場合には申請を行うことで払い戻しが可能なものの、2つに分けて全体の収入が実質的に下がれば、それに合わせて自己負担の上限額も下がり、結果として介護費用を安くできるという訳です。
メリット②高額介護サービス制度の負担額上限を軽減
高額介護サービス制度の負担額上限を軽減できます。介護費用の負担の割合というのは、本人の収入、もしくは世帯の収入によって決定されるところがほとんどです。その為、世帯を別にした方が良い場合もあります。
高額介護サービス費、高額介護、高額医療合算制度というのは、同じ世帯の中で生じた介護や医療に関する費用を合算して算出するものになっています。それゆえに、親世帯の所得が下がれば、介護費用も抑えられます。
加えて、世帯収入をもとにして介護費用が算出される場合、世帯を分けて世帯収入を減らせます。現状の自己負担額が2割から3割の場合には、減らせるチャンスがあるのです。
メリット③後期高齢者医療制度の負担額を軽減
後期高齢者医療制度の負担額も軽減可能です。この医療制度は、75歳以上の後期高齢者の医療費を負担する医療制度となっており、基本は後期高齢者は1割を自己負担することで医療機関を利用できるものの、本人も保険料の納付が必要になります。
この保険料というのは、世帯ごとの所得に応じて負担額が異なっていて、所得が低ければ保険料の軽減制度を利用する事が出来ます。世帯を分離すれば当然所得も減りますので、保険料も安くできるという訳です。
メリット④介護保険施設の居住費と食費を軽減
介護保険施設の居住費、食費などに関しても軽減が出来ます。介護保険制度の中には、居住費および食費を安くする負担限度額認定制度があり、これを活用できるようになるかもしれません。
この認定制度の中では、所得の額に応じて利用者負担段階というものが設けられており、どの段階が適用されるかによって月額費用も変動します。制度自体が収入や資産額が多くない人のためのものという色が強いので、実質所得を低くして活用できる事もあります。
メリット⑤国民健康保険料が下がることもある
更に、国民健康保険料についても下げる事が出来ます。支払う額に関しては前の年の収入がいくらであったかによって算出される方式ですから、これも他の利点と同じく前の年の収入を下げ、保険額を少なくできるという訳です。
全ての人が下げられる、という訳ではありませんが、現状で該当の保険に入っているケースであれば、毎月の額もそれなりに少なく出来るでしょう。
世帯分離のデメリット
この様に、保険や施設など様々な面でかかる費用が削減できるというのは助かるところでしょう。ただし、メリットだけではなくマイナスに働く事もあるので、申請を行うか否かは慎重な判断が必要です。
デメリット①国民健康保険料の負担額が増える場合もある
まず、保険額が分かれる前よりも多くなってしまう事があります。現時点で保険を使っていた世帯が分かれるという事は、それ以降は別々で払う義務が生じるのです。
同一でまとまっていたのならば、その中で必要な保険料はすべて払われる形であったのが、分かれてしまえば負担先が別になるのです。世帯を分ける事が保険料を安くするか、それとも負担になるのかは、収入の状況などによって異なります。
デメリット②扶養内だった家族が扶養から外れる
続いて、扶養から外れてしまうというのがネックな所になります。世帯を分離すれば当然ながら別々の世帯となり、扶養外になりますので、世帯主が勤務先で受け取っていた扶養手当や家族手当といった諸手当も、もらえなくなるのです。
また、勤務先の扶養を外れるという事は、保険組合のサービスも以降無くなるという事です。高齢者が身内にいるような場合は、勤め先の諸々の手当てや保険料によって今助けられている部分があるのも忘れてはなりません。
デメリット③手続きが面倒
世帯の分離をする為には、当然ながら手続きを行わなければなりません。住民票に記載される住居等も変更する必要が出てくるので、住民票を取得し、複数の書類を用意して手続きを行うのです。
世帯の分離後も、これまでは1世帯で出来た手続きをすべて別々の世帯で実施することになりますし、親が高齢で手続きが難しいという場合、子どもが代行をしますから、委任状も用意して、というように何かと手間が増えます。
デメリット④会社の健康保険組合の制度を利用できない
世帯の分離を行うという事は、先に述べた通り世帯の扶養から外れるということと同義でもあります。となれば勤め先の健康保険組合に入っていた場合にも、今後は利用できなくなってしまいます。
扶養家族に関しては自分で保険料を支払う必要はありませんが、その扶養から抜ければ自分で保険料を支払う必要も出てきます。保険組合独自の付加給付などがあった場合、それらも無くなり負担が増えるケースも考えられます。
世帯分離がおすすめな人
メリット、デメリット双方がある世帯分離ですが、お勧めできる人は親世代で要介護者の収入が少なく、子世代の給料が高いという場合には、分離によって様々な恩恵を受けられると予測できます。
逆に現役を引退している場合であっても、親世代の収入が相応にある、1世代で2人以上の介護サービスを受けている、子が親を会社の扶養家族に入れている、などといった場合には、負担軽減は受けにくいと想定されます。
世帯分離の手続き方法
デメリットの中で、世帯分離を行うためには手続きが色々と手間になるという事を解説しました。最後に、実際に世帯分離を行う場合の手続きの手順などについてご紹介しましょう。
手続き前に負担軽減できるかを確認
まず、手続きを行う目に負担が軽減できる、すなわち世帯分離によってメリットを得られるかどうかを確認しましょう。負担軽減が出来る項目は、以下の通りとなります。
- 住民税軽減
- 国民健康保険料の減額
- 介護保険サービスの自己負担額減額
- 施設入所の食費、居住費減額
- 後期高齢者医療保険料の減額
現在の親世代、子世代の収入の度合いや比率によって、負担を軽減できるか否かが大きく変わりますから、どう変化するのかをFPやケアマネジャーに相談してみても良いでしょう。
準備するもの
続いて、手続きに必要な書類を準備します。世帯分離に必要になるものは、合わせて5点ほどとなっていますので、事前に揃えておけるとスムーズに進められます。
- 世帯変更届
- 本人確認書類
- 印鑑(必要な場合)
- 国民健康保険証
- 委任状(本人以外が手続きをする場合)
本人確認書類は、運転免許証やマイナンバーカードなどがありますが、顔写真付きのものを選ぶか、無い場合には2種類用意できると良いでしょう。
市町村の窓口へ提出
書類が用意出来たら、各市町村の窓口へと提出をします。窓口では本人確認書類や世帯変更届など、用意した書類を提出し、場合によっては印鑑の押印も求められます。ここで本人以外が手続きをする場合、委任状も提出します。
世帯を戻したい場合はどうする?
一度世帯分離をした後、また1つの世帯に戻したいという場合には、世帯合併という手続きを行います。住民票の複数世帯をまとめるものであり、住民異動届の提出によって手続きを進める事が出来ます。
自分のメリットを確認して世帯分離の手続きをしよう
世帯分離によって費用軽減などのメリットが得られるかどうかに関しては、その世帯の収入の割合などによって変化します。一度確認して、世帯分離による利が得られるかを確認してみてください。