介護の現場においては必ずと言っても行われる食事の介助。しかし、実際にはどんな事をしているのかというと、イメージするのは難しいかもしれません。一口に介助すると言っても、色々とするべき事があるのです。今回は、食事介助でやる事や準備、手順などについて解説します。

目次

食事介助が必要となる理由

介護と言えば、非常に様々な事を行うことになりますが、その中には食事の介助もあります。名前の通り食事をする事を第三者が助けるというものですが、なぜ必要になってくるのでしょうか?

理由①身体機能の衰え

まず1つ目は、身体機能が衰える事です。高齢者ともなれば、当然ながら身体機能は全体的に低下していきます。若い世代と比べてみれば、身体機能が衰えている事は誰の目から見ても一目瞭然でしょう。

これは食べるという行為にも大きく関わっていて、視力が低下した事によって食べるものが今どこにあるのかを正確に把握できなかったり、その食べ物を口に運んでいくだけの筋力がなかったり、または後述するように噛めないといった事も挙げられます。

理由②唾液の分泌量の減少

2つ目は、唾液分泌量の減少です。唾液の分泌量の減少というのは、筋力低下や視力低下などのように分かりやすいものではありませんが、れっきとした身体機能の衰えの1につ数えられます。

唾液の分泌量が減るという事は、嚥下する力が低下するということも意味しています。これによって、水分が少ない、普通に食べるとパサパサした食感になるものを食べにくくなってしまうのです。

理由③甘味や塩味の感覚の低下

味覚、嗅覚などの五感に数えられる味覚、そして嗅覚といった機能も低下していきます。これらも加齢によって低下していくとされていますが、味覚は舌の味を感じる細胞「味蕾」が減少する事によって、甘味や塩味といった味を感じにくくなるのです。

この味覚の感覚機能が加齢によって低下していく事で、高齢者は比較的濃い味付けを好んでいく傾向にあると言われています。

これに合わせて嗅覚も低下していき、衰えていけば当然料理から匂いを感じ取れず、食欲不振、減退などにつながります。こういった事態も踏まえて、要介護者の食事の時間や量を把握しなければならないのです。

理由④噛む力が弱くなる

機能低下の中でも影響が大きく分かりやすいのが、噛む力の減退です。介護が必要な高齢者が、顎の力が弱まってしまったり、歯そのものが無くなる事が原因とされていて、硬い食べ物を食べられなくなっていきます。

そして、食べやすくなる柔らかい食べ物を好むようになります。柔らかい食べ物の数にも限りがあり、栄養も偏っていきやすくなりますのでさらに体を弱めます。それゆえに、要介護者の噛む力などに合わせて、食べ物の硬さ等も合わせていく必要があります。

理由⑤認知症などの影響

高齢者ともなれば、身体的な機能低下といった変化だけに留まらず、認知機能についても変化が訪れやすいです。認知症は食べ物を食べ物として認知できなくなり、更に味覚や空腹感も実際はある筈なのに認知できず、食事に大きく影響してくるという訳です。

食事介助の方法【食事前の準備】

この様に、食事介助というのはただ単に高齢者に食事を食べさせる助けをすればよい、というのではなく、様々な理由で介護が必要な場合に対して適切な対処をしなければならないのです。

準備①食事をすることを伝える

まず、食事をする前の準備として、食事をすることそのものを伝える事から始まります。これは、介護が必要な高齢者に対して「今から食事をする」という意識を高めるために行うものです。

椅子に座った状態のまま眠っていたりもしますので、必ず事前に食事が始まる事を伝えます。認識を持ってもらうという事は思っている以上に重要なもので、誤嚥してしまうリスクの減少、意識をハッキリとさせた状態で食事をさせるといった意味を持っています。

準備②排泄を済ませてもらう

食事の前に、排せつも澄ませます。最初に行う食事を伝えるという行為も、食事そのものに集中させるための準備です。その環境を整えるためにも大切な事であり、もし食事中に席を離れると、食べかけのものは自分のものではない、と混乱してしまう事もあるからです。

また、そのまま食べ始めてから排せつがしたくなっても、我慢をしたり食事を急がせて詰まらせるリスクを高めたり、手洗いやチェックなどにも時間がかかります。とにかく食事だけに集中させるためには、これも必要な事です。

準備③落ち着いて食事ができる環境を作る

これまでの声掛けなども環境づくりの一環ではありましたが、そのほかにもやるべき準備は色々とあります。例えばテレビが付いたままの場所などでは騒がしくて集中しにくいですし、清潔な場所を選ぶことも大切です。

準備④口腔ケアをする

食事に入る前に、うがいや歯磨きなどをして口腔ケアも行います。嚥下障害を持っている場合には誤嚥の可能性が高まりますし、口内が細菌などで汚れていると誤嚥性肺炎なども発症してしまいかねませんので、食事前にケアをするのです。

食事介助の方法【手順と注意点】

食事を口に運ぶ、所謂本命の介助の前にも、やるべき事がいろいろとあるのがお分かりいただけたかと思われます。そして、実際に食事介助をする中でも、デリケートな事である以上は注意しなければならない点が多いです。

手順と注意点①安全な姿勢を保つようにする

まず、食事中は安全な姿勢を保つようにします。椅子に座れるのであれば椅子に深く座り、足の裏をしっかりと床につけさせる、ベッドで寝たままであればリクライニングの角度を45度から70度前後へと、本人の希望や体などに合わせて調整します。

手順と注意点②同じ目線で介助ができるようにする

介護をする方も、要介護者と同じ目線で介助を行います。立ったままの状態での食事介助というのは、相手に対して威圧感を与えてしまうだけではなく、要介護者が必然的に顎を上げるので飲み込みづらく、誤嚥を誘発します。

理想的なのは、利用者と同じ目線になれるように隣、もしくは斜め前あたりにスタンバイして、安全に食べてもらえる状態で介助をします。

手順と注意点③口の中を湿らせておく

食事に入る前に、水分をまず補給させて口の中を締めらせておきます。理由の中でも述べている通り、要介護者は唾液の分泌量が低下しているので、これを水分補給によってサポートします。食事の間も、こまめに水分を補給させて食べ物を飲み込みやすくさせるのです。

手順と注意点④水分の多いものを最初に食べてもらう

3つ目と同じような理由で、水分の多い食べ物を最初に食べてもらいます。その方が食べやすいからであり、食事に慣れるという意味合いもあります。そして、主食、副食、水分というように1つに集中させずに交互に食べさせるのです。

手順と注意点⑤箸やスプーンは下から口に運ぶ

食事介助において、箸やスプーンは介護者の口の下から運んでいくのが基本とされています。口下あたりに持っていき、口の奥ではなく手前に含ませることによって、誤嚥のリスクを避ける意味合いがあります。

手順と注意点⑥丁度良い分量を口に含ませる

介護者には適量を含ませるべき、と言われていますが、この適量というのは大体スプーン1杯程度の余裕を持って食べられる分量とされています。多すぎても少なすぎても誤嚥の可能性があり、特に硬めの食べ物は多すぎると吐き戻しも考えられますので注意が必要です。

手順と注意点⑦食事は高齢者のペースに合わせる

そして、食事全体のペースは高齢者本人のそれに合わせるようにしましょう。急かしても良い事は無く、むしろ誤嚥のリスクを高めかねません。身体的にも精神的にもストレスになるので、あくまでも介護者のペースを優先します。

ただし、合わせすぎて時間があまりにもかかってしまうのもいけませんから、1回の食事時間を大体30分程度で収められるようにして、食事そのものに疲労感を覚えさせないようにします。

食事介助の方法【食後にすべきこと】

無事に食事を終える事が出来たら、難所は越えたといったところでしょう。そして、食事介助のケアは食べ終わったらすぐ終わりという訳ではなく、食後のケアも行うのです。

食べた量を確認する

まず、食べた量がどのくらいなのかを確認します。定期的に食事の摂取量を確認するのは、高齢者の健康状態把握につながります。その為、食べた分や残った量、更には食事にかかった時間なども記録するのです。

口腔内を清潔にする

食後は入れ歯などの義歯の洗浄、歯磨きなどを促して、口腔内を清潔にさせます。食べ物が口の中に残っていると、虫歯だけではなくそこでも誤嚥や窒息を起こしてしまうリスクがありますので、必ず食後の口腔内確認や清掃も行います。

正しい食事介助で安全に食事を楽しんでもらおう

食事の時間というのは、正しい介助を行うことによって楽しみな時間にする事も十分に可能になります。基本をしっかりと押さえて実践すれば、負担なく食事に集中させ且つ楽しませられますので、適切な食事介助を心がけてください。

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