介護といえば、自分も介護者も同じ家に住んで生活を介助する、というのがイメージされるかもしれませんが、遠距離介護というのも最近は珍しくなくなりました。今回は、遠距離介護とはどんなものか、実際に行う場合に必要な準備などについて解説していきます。

目次

遠距離介護とは

昨今の日本の少子高齢化は最近になって急速化したものではなく、近年叫ばれ続けてきたものです。介護に関する需要についても高まっている今、遠距離介護の必要性も同時に存在しているのです。

そもそも遠距離介護というのは、怪我、病気等で介護が必要になった親を、文字通り離れている遠距離からサポートする介護のことになります。2019年の厚生省の調査では、遠距離介護の割合は13.6%と決して少なくない数値が出ています。

介護をする側が仕事などをはじめとした社会的な役割と責任を担っており、生活の拠点を現在の居住地から動かすのが難しい、といったように介護をする方の理由によって遠距離になるケースもあります。

対して、後に詳しく解説する通り親が住み慣れている場所から離れ、新しい生活環境に帰る事が難しいといったような、被介護者側の理由によって遠距離介護が選択肢として選ばれる事もあります。

遠距離介護をしている人はどれくらいいる?

既に触れていますが、遠距離介護を実際に行っている家庭の割合は、2019年の厚生労働省による国民生活基礎調査によれば13.6%という数値になっています。

また、過去の同じ調査の数値を見てみると、2013年は9.6%、その3年後の2016年には12.2%となっており、この後の2019年が13.6%になっている事からも、遠距離介護の比率は年々高まっているというのが分かります。

遠距離介護をする理由

介護が必要な人にとっては、同じ家で一緒に生活するのが一番安心できます。そんな中でなぜ遠距離介護が年々割合として増え続けているかという理由の点については、主に2つが考えられ、介護者と被介護者両方の事情が関係しています。

理由①親が住み慣れた場所から離れたくない

まず1つ目の理由は、親が住み慣れている場所から離れたくない、という被介護者側の事情によるものです。介護をするとなると、方式によっては被介護者の環境が大きく変化します。

介護サービスにも種類がいくつか存在しており、居宅サービスという在宅で利用できる日帰りのデイサービスもあれば、施設に入居する施設サービス、更に地域密着型サービスという3つの種類が存在しています。

この内、特に被介護者の環境が大きく変化するのは、やはり施設サービスです。生活する環境が今までの自宅から施設へと変わりますので、当事者にとってはとても勇気が必要なものなのです。

後述するように介護をする側が今の居住地から離れられないので、そちらに移住して一緒に住もうと思っても、自分が今まで住み慣れていた土地を離れ環境を変えるというのは中々前向きに考えられるものではないところがあります。

介護の環境が与える影響は無視できないもので、生活の拠点が変化し新しい環境になじむ事が出来ず、被介護者が認知症を発症してしまった、というケースすらあるほどです。

理由②介護者が今の生活を変えることができない

もう1つの大きな理由として、介護者が今の生活を変えるのが難しいというのが挙げられます。1つ目の理由は被介護者の環境変化を受け入れられないというものでしたが、こちらは介護をする側の事情によるものとなります。

最もイメージしやすいのは、やはり介護者が仕事をしているからといった理由でしょう。例え当人としては親の近く、すなわち同じ屋根の下で面倒を見たいという気持ちがあったとしても、仕事によってそれが難しくなってしまうのです。

介護をするとなると、年代的にも働き盛りですから、仕事においてもそれなりの地位に立っていて社会的な責任と役割を担っている事も珍しくありません。どころか、そういったケースの方が多いと言えるほどです。

こういった環境があるために、おいそれと住居を変えたり、生活場所を変えて介護に専念するというような事は中々実行に移しづらいところがあります。配偶者や子供がいるのなら、増々難易度が高くなります。

遠距離介護は親が元気なうちに準備を進めよう

この様に、介護をする側、そしてされる親側のそれぞれの事情があり、遠距離介護はどんな家庭でもできるものではなくなっています。ただ、これを最初から踏まえられていれば、親の元気なうちに遠距離の準備を進める事も出来ます。

準備①生活パターンを把握

まず、親の生活パターンの把握をするところから始めてみましょう。日常の起床時間や就寝時間をはじめとして、食事や家事、外出といったような一般的な生活パターンを把握しておくのです。

これは、現状は一人で問題なく行えている生活の中でも、当人としては困っていたり不安に思っている事があるケースも十分考えられますので、先んじでそういった支援が必要な面を把握するのです。

例えば、起床時間や睡眠時間を把握しておくと、今後介護が必要になった時のかかりつけ医への通院日時が分かりますし、食事内容を知るのは利用している薬局を知ることにつながります。

生活パターンの把握は、介護に関する相談や話し合いをスムーズに進めるとともに、今後必要になってくる支援の内容を具体的に知る機会となります。

準備②交友関係を把握

続いて、交友関係の把握を行いましょう。近所との付き合いや友人はどの程度いるのか、参加している集まりがあるかどうか、親戚付き合いというように、親族から知人まで人間関係を知っておくのです。

これは、親にとっても前述したような他人との付き合いがありますし、もしお互いに何かがあった時助け合ってきたような間柄であれば、これからも自分が頼れる心強い味方となります。

近所や親族の人たちとの関わり合いを把握し、自分の事と内情を知っておいてもらえれば、離れている自分の代わりに時々様子を見に行ってもらうというような要望を述べて助けてもらえるかもしれません。

介護というのは一人で行うものではありません。勿論自分が一番近しい存在かもしれませんが、介護サービスの関係者や交友のある人からも助けてもらえれば、遠距離でも安心できるというものです。

準備③経済状況を把握

経済状況の把握も、とても大切な準備の1つとなります。介護には、当然ながら少なくない費用が発生します。介護サービスを利用すれば継続的に支払う必要もありますし、施設を利用するとなると更に高額化してしまいます。

そして、そういった介護に関するサービスの費用については基本的に親の年金や貯蓄を利用して支払っていくもの、と考えておきましょう。となれば、把握するべきポイントもおのずと分かってくるでしょう。

  • 月々の年金額
  • 現状の預貯金
  • 借金の有無
  • 加入している保険の種類等

大まかに挙げれば、こういった項目を事前に自分が把握しておくと、どの程度の経済状況かを知れます。また、介護保険証や銀行の通帳に印鑑、そして生命保険書の場所についても知っておきましょう。

準備④住宅をリフォーム

施設では無く住み慣れている自宅を老後の居場所にしたい、というのは決して珍しい話ではありません。高齢者にとっては、日々を生活していく住環境というのも非常に重要となります。

例えば自宅で転倒してそれが命にかかわってくる、といったような話も決してあり得ない話ではありません。こういった怪我や事故を未然に防ぐべく、住宅のリフォームを行うという準備があります。

老朽化している箇所があればその部分の修繕および安全性の確認をし、必要に応じて家の各所に手すりやバリアフリーの設置を行うといった事も介護を目的としたリフォームではよく行われています。

改修の費用はもちろん安くありませんが、自治体によって助成金を出してもらえるところもありますし、住宅の改修については介護保険サービスを適用させることも可能ですので、出来るだけ制度を活用しましょう。

準備⑤介護に関する希望を聞く

介護が実際に始まると、被介護者である親の代わりに自分が意思決定を行わなければならないシーンも出てきます。また、介護自体が長期化する可能性は十分以上に考えられますから、出来る限り親の要望通りに進めたいと思うところでしょう。

そこで、事前に介護に関する希望を聞いておくのが大切になってきます。どんな風に老後を送りたいのか、介護が必要になった時の要望をあらかじめ聞いておけば、それに沿って選択ができるようになります。

具体的には「どこで老後を過ごしたいのか」「どんな介護を受けたいと思っているのか」といった点は聞いておきましょう。これらを家族共有ができるアプリなどに残しておけると、より便利と言えます。

準備⑥見守りができるICT機器などの設置

リフォームにも関係してくる話ですが、見守りが出来るIDT機器を設置するというのも立派な準備の1つとして数えられます。というのも、遠距離となればやはり一緒には暮らせませんので、自分の目を十全には行き届かせられません。

そこで役に立ってくれるのが、ICT機器をはじめとした便利な器械です。証明、家電といったように、毎日使用するものにも通信機器が付くようになりました。これを「IoT」と呼びます。

例えば、一定期間使用されないとインターネットを通じて家族に通知が届くようになるなど、一緒に居なくても生活の把握ができます。これならば、監視のようにプライバシーを侵害せず、それでいて「見守り」ができます。

自治体によっては、緊急通報システムを自宅に設置してくれる事もあります。もし具合が悪くなったり、怪我をした時に利用すると民間の警備会社に通報が届き救助される、といったサービスです。

準備⑦近隣住民やかかりつけ医と連携

そして、近隣住民やかかりつけ医との連携も大切です。やはり遠距離の介護となると同じ屋根の下で過ごすわけにはいかない状態となるわけですから、周囲からの支援や協力を欠かすことはできないのです。

こういった時に頼りになるのが、先に紹介した介護が必要になった当事者の知人や親せきといった身の回りの人、そしてかかりつけの医師です。

高齢となり体に不自由を抱えている要介護者は、自力での外出が難しくなり孤独を感じる事も多くなります。そういった時の為、近隣の方や友人などにたまにでも様子を見に行ってもらいたい、といったような要望を出しておくのです。

高齢になっても交流があるような相手であれば、おそらくは良く計らってもらえるでしょう。また、世話になる医師とも出来る限り連絡を取り合って、いざという際にすぐ対処してもらえるような体勢を整えておくと安心できます。

遠距離介護を成功させるポイント

やはり住まいが離れているという状態の遠距離介護では、介護者も被介護者もお互いに不安が残るところがありますので、家族内だけではなく各所との協力や支援が大切です。続いては、遠距離介護を上手く進めるためのいくつかのポイントについてです。

ポイント①連絡を密にとる

まず、家族との連絡を密に取るようにするのがとても大切になります。シンプルな話でありそこまで効果があるのかと疑問に思われるかもしれませんが、コミュニケーションの確保というのが思っている以上のに大切なのです。

介護をされる親の側からすれば、子どもにとって負担になりたくないという気持ちを間違いなく抱えています。となると、体調不良や具合が悪くなった時も中々それを言い出さなくなってしまう事があります。

当然、言い出さずにいるままでは本当に命にかかわってくる可能性が高まるばかりです。故に介護が必要になったら密な連絡を取って、現状を詳しく把握するのが重要なのです。

また、これは介護が必要になる前からもやっておくのをお勧めします。特に遠距離だと会える回数もそう多くはないですから、zoomやLINE通話等で無理なくコミュニケーションを取っていきましょう。

ポイント②家族や兄弟にも協力してもらう

続いて、親戚や兄弟姉妹にも協力をしてもらうようにしましょう。すでに何度も述べていますが、介護は一人でできるものではありませんし、特に遠距離となれば多くの方の協力が必ず必要になります。

だからこそ、近しい親族や兄弟姉妹との協力が不可欠なのですが、介護においては誰がどの程度関わるのかの分担がとても大切で、誰かに偏ってトラブルになってしまう事も大いにあり得ます。

兄弟姉妹や親族にもそれぞれの生活があるわけですから、各々でどの程度関われるのか、支援が出来るのかを経済的な面でも直接の支援の面でも介護が必要になる前に把握し決めておけると一番理想的です。

ポイント③職場にも早めに相談する

遠距離を選択した以上は、少なからず自分の事情も関わっているところがあるでしょう。特に、親元を離れて仕事をしているというケースは、遠距離介護になる非常にメジャーな事情となっています。

とはいえ、仕事上でもそういった介護の必要性を鑑みて、介護休業制度というものが設けられています。これは、家族内に介護が必要な人が居る場合、まとまった休暇を得られるという制度です。

あくまでも仕事と介護の両立を図る制度であり、また休業ではなく1人につき1年5日まで取得できる介護休暇などもあります。これらの制度があるのを認知し、早めに相談するのをお勧めします。

ポイント④自治体や民間のサービスを活用

兄弟姉妹や親族だけではなく、自治体や民間のサービスで利用できるものは活用していきましょう。介護保険では、施設を利用したり在宅での訪問といった形で介護を担ってもらえます。

ですがそれだけではなく、自治体、民間、そして民生委員のボランティアが提供する、後述する配食や見守りをはじめとした介護者支援策もあるので、介護保険に限らず相当多くの支援活動を利用できます。

自治体で言えば、介護や医療、福祉といった総合的な相談窓口である地域包括支援センターの利用を推奨します。これは介護が必要になる前から相談が可能で、面談を先にしておくと介護が必要になった時にも安心できます。

ポイント⑤交通費は介護割引を利用

遠距離介護において、費用面で大きく負担になりやすいのが、交通費の問題です。普段なかなか会えないとなると相当遠くに住んでいる筈ですから、一度会いに行こうと思った時には往復で相当な金額が必要になってしまいます。

身体的疲労が少なく無理なく利用できる新幹線や飛行機による移動では、各社の介護割引サービスを利用しましょう。これは、条件によって何割か割引が出来たり、会員登録をするとサービスが受けらるものです。

鉄道や航空会社それぞれでサービスの内容は違っていますが、交通で利用する場面が想定されるのであれば事前にサービスを調べておくとよいでしょう。

ポイント⑥ケアマネージャーや近隣住民と良い関係を築く

また、ケアマネージャーや近隣住民との良好な関係を築いておくこともとても大切です。これまでに何度も述べている通り、遠距離で自分の目が直接届かないとなると、親と物理的に近しい人の協力が欠かせません。

近隣の住民の助けが必要であるのならば、それをしてもらえるように日ごろからコミュニケーションを取っておき、たまにでも様子を見てもらえるような関係づくりをしておきたいところです。

また、介護サービスを受ける場合には、その内容を把握するケアマネージャーとの接点もしっかり持っておかなければなりません。こちらもしっかり連絡を取っておきましょう。

遠距離介護をするメリットとデメリット

自分の生活環境、または被介護者の要望から、やむなく遠距離介護を選択している、という家庭も珍しくはありません。ただ、選択肢として考えられる余裕があるのなら、メリットとデメリットの両方を押さえておきましょう。

遠距離介護のメリット

  • 自分が転居する必要が無くなる
  • 仕事をそのまま継続できる
  • 介護保険サービスが利用しやすくなる
  • 介護のストレスや負担が少ない
  • 身体的疲労がかかりにくい

まずメリットについては、上記のようなものが挙げられます。遠距離で介護をするのはそれぞれの家庭の事情があるでしょうが、そちらを優先している分親も自分の家庭も住環境を変える必要はありませんし、仕事が理由の場合でもこれまで通り続けられます。

また、距離が遠距離と言われるだけ離れている分帰省するたびに気持ちが切り換えやすい、一緒に暮らすわけではないので自分の介護に関する身体的、時間的負担が少なく済むのも大きな利点です。

遠距離介護のデメリット

  • 費用の負担が大きくなる可能性がある
  • 万が一の際の早急な対応が難しくなる
  • 一緒に住まない分地域の情報収集がしにくくなる

対してデメリットでは、遠距離として文字通り物理的な距離を開けてお互いが生活している分、帰省をするときには交通費をはじめとした費用がかかってしまいますし、お世話になっている人が身近にいれば手土産やお礼も出すための費用が発生します。

また、命にかかわってくるようないざという事が起こった時、すぐに駆け付けられるわけではないので早急な対応も難しくなり、一緒に住まないとなると親の住んでいる地域がどうなっているかも把握しにくいのです。

遠距離介護で活用したいおすすめサービス

遠方に住んで介護をするとなると、一緒に暮らす以上に難易度や危惧するべき事態が増えます。ですから、もし本当に遠方に住みつつの介護を行う段階となった時、ぜひ利用してほしいサービスを最後にご紹介します。

おすすめ①介護帰省割引

まずは、介護帰省割引です。離れて生活をしている親元に帰省をしようとする際には、遠距離という言葉を使う以上相当離れている訳ですが、新幹線に電車、飛行機などの交通費が決して安くない費用として発生してしまいます。

帰省割引については既にどんなものかを解説していますが、配偶者の兄弟姉妹の配偶者等の条件に合えば、例として航空機なら最大3,4割ほど費用の割引が効きます。自分が利用する交通機関で利用できる割引制度が無いか、調べてみましょう。

おすすめ②介護保険サービス

続いて、介護保険サービスになります。これは、要介護、要支援の認定を受けた高齢者が利用できるサービスの総称であり、地域包括支援センターでの認定を受ける申請をしてもらう必要があります。

一度認定を受ければ、その人に必要な介護サービスのプランニングをしてくれるケアマネージャーが付いてくれますから、一緒には住めない状態になることをしっかり伝えたうえで適したサービスを用意してもらいましょう。

おすすめ③宅配サービス

宅配サービスも、便利な遠距離介護のサービスの1つです。各自治体では食事を届けてくれるサービスがあり、一人暮らしの高齢者、高齢者のみの世帯を対象にして、中々世話の出来ない食事を届けてもらえるのです。

自治体の選択した配食担当事業者が、朝食、昼食、そして夕食それぞれを自宅まで手配してくれます。食事面の面倒を見てもらえる他、最低1日3回は様子を見てくれるので色々なメリットがあります。

おすすめ④見守りサービス

引用:日本郵便

もう1つ、見守りサービスというものもあります。配食サービスもその1つではありますが、これと同じく自治体が行っている安否確認サービスや、企業によるセンサー型見守りサービスというように活用できるものは色々とあります。

準備をしっかりして親の遠距離介護を成功させよう

遠距離介護は、介護による離職やお互いの環境変化を避け、両立を可能にする方法です。ただ、被介護者と毎日顔を合わせる事が出来ない遠距離という状況故に周りの協力が欠かせないのは確かですので、是非とも準備を念入りに行っておいてください。

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