デイサービスやグループホームなどで介護者の状態を記録する介護記録は、適切な介護サービスを行うためにも必要な記録です。しかし、介護記録といっても記入を苦手とする方は少なくありません。また、介護記録では禁止されている用語があるのをご存知でしょうか。こちらの記事では介護記録の禁止用語や使用してはいけない理由、言い換えの例えなどをまとめました。
介護記録とは
そもそも介護記録とはどのようなものなのか、しっかりと理解していなければ正しく記入することができません。まずは介護記録がどんなものか、どうして必要なのかを把握しておきましょう。
介護記録の目的
介護記録は様々な介護施設を利用する方の健康状態や経過観察、活動状況、と介護者に関する色々な状態を記録しておくためのものです。介護記録の目的は情報を共有する、報酬を得るための根拠、事故が起こった際の証拠などにも利用されます。
【情報共有】
介護施設では様々な介護職員が介護にあたります。介護記録は介護を行ったときにそれぞれの視点を通した状態を記録することで、複数職員が情報を共有するためのツールの役割を果たしてくれます。
「あとで報告すれば良い」と思っていても、口頭では報告漏れや認識のズレが生じてしまうので、記録書に残すことで細心の情報を共有、利用者に応じた適切な介護を行うことができます。また、危険な状況にあったが大事には至らなかったような「ヒヤリ・ハット」を防ぐためにも役立ちます。
【報酬を得る】
介護を行う事業サービスは介護保険制度の規則に沿って報酬が支払われる仕組みになっています。自治体や利用者側から「どんなサービスを行ったか」の開示を求められた場合、介護記録があればその内容をしっかりと提供できます。
ケアプランに基づいたサービスであれば、適切なサービスをした証明にもなるので、健康状態や経過観察などは細かく記入すようにしてください。
「特になし」では正しく報酬が得られない可能性も出てくるので避けておきましょう。介護記録は報酬を得るために必要な「法を守っている」「適正なサービスを行った」記録でもあるので、正しく記入することが求められます。
【証拠】
万が一事故が起こった場合、事故や訴訟のときに証拠として提出するにも介護記録は有効です。また、サービスの質の確保や給付の適切化目的のために行われる実地指導などがあれば、どんなサービスを行っているか、対処法などを提示することもできます。
特に介護者の家族と職員のコミュニケーションが少ない場合、何かあればすぐに問題となることも少なくありません。介護記録は介護者だけでなく、事業所や施設を守るためにも必要なことなのです。
介護記録の使ってはいけない言葉と理由
介護記録は誰が読んでも分かりやすいように記入することが大事ですが、介護記録では使ってはいけない言葉があるので注意してください。こちらでは介護記録に使用してはいけない言葉とその理由についてまとめました。
介護記録の禁止用語①侮辱表現
介護記録で最もタブーとされている表現が「侮辱表現」です。職員同士の情報共有の場であっても使うことは避けてください。
「ボケている」「しつこい」「わがまま」などの表現は担当した職員の主観であり侮辱的、曖昧な表現なのでどのような状況か把握できません。もし介護記録を家族が見れば嫌な気持ちになり、今後利用しようという気にはならないでしょう。
特に認知症や障害のある方には最大限の注意を払う必要があります。侮辱表現は介護記録だけでなく、その人の人格を無視した言葉であり、人として使うに値しない表現なので使わないようにしましょう。
介護記録の禁止用語②指示用語
利用者に何かしらの行動を促した場合でも、介護記録には「指示用語」は命令しているような上下関係を連想させてしまうので、使わないようしてください。
「~させた」「促した」などは職員の方が偉いと捉えられる表現なので受け取る側の印象が悪くなり、事業所や施設に対して不安や不信感を抱いてしまいます。
利用者と職員の間に上下関係はなく、あくまでも対等な立場ということを念頭に置いて介護記録に記載してください。
介護記録の禁止用語③専門的な言葉
職員同士では意味が通じる専門的な言葉も、家族からすればまったく知らない表現になるので、介護記録では「専門的な言葉」も禁止用語となります。「徘徊」ぐらいなら分かるだろう、と思っていても正しい意味を把握していない可能性も少なくありません。
分からない言葉で説明されても不安や不信感が募るだけなので、誰が読んでも分かりやすい介護記録にするためにも、略語や専門的な言葉は別の言葉に言い換えて書きましょう。
介護記録の禁止用語④医学的な用語
健康状態や経過観察を介護記録に残す場合、「医学的な用語」は基本的に使うことはありません。医学的な用語とは医師が診断した場合に使われる言葉で、「頭痛」や「腹痛」であればまだしも、一般職員が「肺炎」や「胃腸炎」と言い切ることはないので、介護記録に医学的な用語があるのはおかしいと思ってください。
怪我や病気の可能性があっても、その様子は記録しますが、明確な病名・症状は医師の判断なしでは把握できなものなので、介護記録では禁止用語となっています。もしそのような状況を書く場合、「打撲」であれば「赤く腫れている」など見たままの状況を書くようにしましょう。
介護記録の禁止用語の言い換え例
介護記録では使ってはいけない禁止用語がいくつかあり、利用者や家族に配慮した書き方を意識する必要があります。記録は客観的に書くことが求められる、誰が見ても分かるようにするため、禁止用語の言い換え例もチェックしておきましょう。
侮辱表現の言い換え例
侮辱表現は人格否定にも繋がるので、絶対に使用せず別の表現に言い換えます。例えば「ボケ症状が見られた」は「同じ場所を数分見つめ続けている」「ぼんやりしている状態が数分続いた」と言い換えてください。
「しつこい」「わがまま」などは「約10分間に同じ話を数回続けた」「同じ職員に何度も話しかけた」、「行動を促したが顔をしかめた」など客観的な視点に言い換えましょう。
指示用語の言い換え例
命令や上下関係を思わせる指示用語は柔らかい表現に言い換えてください。「~させた」は「勧めた」に、「促した」は「してはどうでしょうか」に言い換えることで印象が変わります。あくまで対等であることを意識した表現をするようにしてください。
専門用語の言い換え例
職員だけが見る業務日誌のようなものであれば専門用語や略語で書いても理解できますが、家族や利用者など一般の方に見せることもある介護記録の場合は専門用語を避けて、分かりやすい言葉に言い換えましょう。
「徘徊」は「目的もなく10分ほど往復していた」や「清拭」なら「身体を拭いた」、「服用・塗布」は「薬を飲んだ、塗った」というふうになります。
また、よく使われる略語であるPT(ポータブルトイレ)やバイタル(血圧)、自走(車椅子を自力で動かす)なども分かりやすく言い換えてください。特に略語はつい使ってしまう言葉が多いですが、介護記録では正式な言葉で書くようにしましょう。
介護記録の書き方のポイント
介護記録では使ってはいけない禁止用語がありますが、それ以外でも書き方に関するポイントがいくつかあります。誰が見ても分かりやすい介護記録にするための書き方をまとめているので参考にしてください。
ポイント①利用者を尊重した記録を記載
介護記録は職員だけが見るものではありません。職員が対応した内容の確認など、場合によっては介護サービスを利用した本人やその家族が閲覧する可能性もあります。
そのため利用者を尊重した記録を書くようにしなければいけません。介護記録を見たときに、利用者本人や家族が不快になるような書き方はNG、相手を尊重する気持ちを持っていれば記録をする際にも書き方に現れるはずです。
ポイント②5W1Hを意識する
介護記録では「5W1H」を意識して書くようにしましょう。5W1Hとは【Who・誰が、When・いつ、Where・どこで、What・何を、Why・何故(どうして)、How・どのように】の頭文字をとった、ビジネスでも使用されるコミュニケーションフレームワークです。
例えば「Aさんが食事を残した」だけでは曖昧な表現で分かりにくいですが、5W1Hを意識して言い換えると「Aさんが昼食の主食1/2摂取、副食・デザートは好みだったのですべて完食した」となります。
このように5W1Hを意識することで介護記録を誰が見てもAさんがどのくらい食べたのか、何を完食したのかが把握できるようになり、伝達ミスも防げます。
ポイント③読みやすくまとめる
5W1Hを意識しても、ダラダラとした書き方では逆に読みにくい介護記録になってしまうので、読みやすくまとめることも重要です。
特に介護記録のような報告書は簡潔に書くことが大事なので、書き出しで結論・最終的な結果を最初に書き、その後に解決法を書くとまとまりのある記録になります。
ここでも長くつづけるのではなく、読みやすいように区切って記録してください。さらに5W1Hだけでなく焦点や情報・状態、行為・ケア・介入、結果・反応の4つを取り入れることで読みやすい介護記録を書くことができます。
ポイント④だ・である調で書く
介護記録は公的文書なので、論点をまとめた分かりやすく読みやすい文章にすることを求められるため、敬体の「です・ます調」ではなく常体の「だ・である調」を使うようにしてください。です・ます調よりも堅いイメージがありますが、説得力のある文章になり、正しい事実を伝えるのに適しています。
介護記録は禁止用語を意識して適切な記述をしよう
介護記録は報告書であり公的文書、誰が読んでも分かりやすく読みやすい書き方を意識する必要があります。適切な介護記録を書くためには禁止用語を意識して、利用者やその家族を尊重し、敬意を評した介護を行うことを心がけてください。