介護福祉士は介護系の資格の中では唯一の国家資格です。介護が必要な高齢者や障害者に対して、適切な介護を行うとともに、本人や家族の相談に応じたり、介護スタッフに対して指導やアドバイス、指示を出したりなど、重要な役割を持っています。

今回は、介護福祉士国家試験の合格率や、難易度、受験資格などについてご説明させていただきます。

目次

介護福祉士国家試験の合格率

介護福祉士とは

「介護福祉士」とは、介護が必要な高齢者や障害のある人に対し、専門的知識と技術をもって、その人の心身の状況に応じて必要な介護を行ったり、本人やその家族に、介護に関する指導やアドバイス等を行ったりする専門職です。

「介護福祉士」は、介護資格の中で唯一の国家資格です。 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)により、以下のとおり定められています。

〈介護福祉士の定義〉
専門的知識及び技術をもつて、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者

参考:社会福祉士及び介護福祉士法(第二条)(2020年4月6日)

介護福祉士国家試験の合格率はどのくらい

平成元年に実施された第1回目の介護福祉士国家試験から現在に至るまで、介護福祉士国家試験の合格率は全体的に上昇しており、ここ数年では、合格率70%前後が続いています。 合格率だけでいうと、国家資格の中では難易度は低めのほうで、しっかり対策を取っておけば、比較的取得しやすい資格といえるでしょう。

  受験者数 合格者数 合格率
第30回介護福祉士国家試験
(平成29年度)
92,654人 65,574人 70.8%
第31回介護福祉士国家試験
(平成30年度)
94,610人 69,736人 73.7%
第32回介護福祉士国家試験
(平成31年度)
84,032人 58,745人 69.9%
第33回介護福祉士国家試験
(令和2年度)
84,483人 59,975人 71.0%
参考:厚生労働省

また、介護福祉士国家試験の受験者は、女性の方が多い傾向にあり、合格者の男女の割合も、男性が約3割、女性が約7割という結果が続いています。ただし、少しずつではありますが、男性の受験者も増えているため、合格者の男女の割合は、今後変化していく可能性もあるでしょう。

年齢別では、41~50歳の合格者が多く、第30回~33回の介護福祉士国家試験においても、41~50歳の合格率が最も高い結果となりました。 介護職自体が年齢制限のない職種であるため、長年介護業界で働いてきた方や、子育てが終わってひと段落した方、再就職先として介護職に就いた方などが、キャリアアップのために資格を取得するというケースも多いということなどが考えられます。

介護福祉士国家試験の難易度

介護福祉士国家試験は、筆記と実技試験で構成されています。筆記・実技の各試験の合格基準点は、総得点の60%程度です。100点満点中、通常は75点のところを、その年の問題の難易度に合わせ、75点よりも数点低い、あるいは数点高い点数を、合格ラインに設定します。

筆記・実技ともに合格点を上回らなければ、合格にはなりません。

先ほどお伝えした通り、介護福祉士国家試験の合格率は、ここ数年70%前後が続いています。国家試験の中では比較的取得しやすい方ではありますが、試験に臨む際は、対策はしっかりと行いましょう。

介護福祉士国家試験の筆記は、全科目の総合得点が合格基準点を上回った場合でも、全ての科目群で最低1問は正解しないと、不合格となります。筆記試験の内容は、介護から医療のことまで広範囲に及び、得意科目で点数を稼ぐという方法は通用しないため、苦手な科目や分野がある場合は、その部分を克服する必要があります。

実技試験は制限時間が設けられており、時間内で、問題の内容に沿った適切な介護を行わなければなりません。時間を超えてしまった部分は点数に反映されないため、時間配分を考えながらも、焦らずに必要な動作を行わなければなりません。 介護のシチュエーションは多様です。実技試験でどのような内容の問題がきても対応できるよう、普段から様々な課題を想定した実技練習を行うようにしましょう。

介護福祉士国家試験の受験資格

介護福祉士になるには、「介護福祉士国家試験」に合格する必要がありますが、介護福祉士国家試験を受験するための受験資格を得る方法はいくつかあります。

実務経験ルート

介護福祉士養成施設(大学や専門学校等)には通わず、介護現場での実務経験3年以上と、介護福祉士実務者研修を修了することで受験資格を取得。

養成施設ルート

介護・福祉系の養成施設を卒業し、受験資格を取得。

福祉系高校ルート

介護・福祉系の高等学校、あるいは、介護福祉科がある高校を卒業し、受験資格を取得。

その他、EPA介護福祉士候補者(インドネシア人、フィリピン人及びベトナム人)が対象となる、「経済連携協定(EPA)ルート」もあります。

介護福祉士国家試験の内容

先ほどもお伝えした通り、介護福祉士国家試験は、「筆記試験」と「実技試験」で構成されます。

筆記試験

「筆記試験」は、五肢択一のマークシート方式です。全部で13個の科目から出題されますが、「人間の尊厳と自立」と「介護の基本」の2科目と、「人間関係とコミュニケーション」と「コミュニケーション技術」の2科目は、それぞれ一つにまとめて扱うため、科目群としては「11科目群」となります。

領域:人間と社会
  • 人間の尊厳と自立(2問)
  • 人間関係とコミュニケーション(2問)
  • 社会の理解(12問)
領域:介護
  • 介護の基本(10問)
  • コミュニケーション技術(8問)
  • 生活支援技術(26問)
  • 介護過程(8問)
領域:こころとからだのしくみ
  • 発達と老化の理解(8問)
  • 認知症の理解(10問)
  • 障害の理解(10問)
  • こころとからだのしくみ(12問)
領域:医療的ケア
  • 医療的ケア(5問)
総合問題
  • 総合問題(12問)

参考:公益社団法人 社会福祉振興・試験センター

介護福祉士の試験では、11科目群全てで点数を取らないと、総合得点が合格基準点を上回っても不合格扱いとなります。そのため、出題数が少ない科目群(「医療的ケア」など)は特に注意が必要です。

(例)第33回(令和2年度)介護福祉士国家試験 筆記試験問題より

【介護の基本】
問題17
「2016 年(平成 28 年)国民生活基礎調査」(厚生労働省)における,同居の主な介護者の悩みやストレスの原因として,最も多いものを 1 つ選びなさい。

  1. 家族の病気や介護
  2. 自分の病気や介護
  3. 家族との人間関係
  4. 収入・家計・借金等
  5. 自由にできる時間がない

【発達と老化の理解】
問題69
Aさん(小学 4 年生,男性)は,思いやりがあり友人も多い。図画工作や音楽が得意で落ち着いて熱心に取り組むが,苦手な科目がある。特に国語の授業のノートを見ると,黒板を書き写そうとしているが,文字の大きさもふぞろいで,一部の漢字で左右が入れ替わっているなどの誤りが多く見られ,途中で諦めた様子である。親子関係や家庭生活,身体機能,就学時健康診断などには問題がない。
Aさんに当てはまる状態として,最も適切なものを1つ選びなさい。

  1. 自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder)
  2. 愛着障害
  3. 注意欠陥多動性障害
  4. 学習障害
  5. 知的障害

【総合問題】
問題115
Jさんは,食事量は回復したが,膝に痛みがあり,家の中ではつかまり歩きをしていた。要介護認定を受けたところ要支援 2 と判定され,家の近くの第一号通所事業(通所型サービス)を利用することになった。
通所初日,車で迎えに行くと,Jさんは,「心配だからやっぱり行くのはやめようかしら」と介護福祉職に言い,玄関の前からなかなか動かなかった。
このときの介護福祉職の言葉かけとして,最も適切なものを1つ選びなさい。

  1. 「急ぎましょう。すぐに車に乗ってください」
  2. 「心配なようですから,お休みにしましょう」
  3. 「歩けないようでしたら,車いすを用意しましょうか」
  4. 「初めてだから心配ですね。私もそばにいるので一緒に行きませんか」
  5. 「Jさんが行かないと,皆さん困ってしまいますよ」

実技試験

実技試験では、実際の介護の現場で想定されるシチュエーション(要介護者についての情報(身体状況等)、本人の希望、介助内容等)が問題として提示され、制限時間5分以内に、その内容に適した介護を行います。制限時間以降の介護内容は得点に反映されないため、注意が必要です。

例えば、身体の左右どちらかに麻痺があり、歩くのを不安に思っている方の移乗介助や、視力を失った方の歩行介助などです。 合格基準は、筆記試験と同様、総得点の60%程度になります。具体的な点数(合格基準)については、試験の難易度によって調整されます。

(例)2014年度(第27回)試験問題

【問題文】
青木かおるさん(93歳)は、下肢筋力が低下して杖を使用しています。
立ち上がりと歩行に一部介助が必要です。
今、本人は居間で横になっています。青木さんは「窓の近くにある植木に水をやりたい」と言っています。
青木さんが窓の近くまで移動して、いすに座るまでの介護をしてください。
青木さんは右利きです。
青木さんの返事は、「はい」または、うなずくだけです。

実技試験での基本的なチェック項目は、以下の通りです。

  • 利用者への挨拶、利用者とのコミュニケーションはとれているか
  • 利用者の健康状態は把握できているか
  • 利用者に事前の説明を行い、承諾を得られているか
  • 利用者の身だしなみの確認を行っているか
  • 適切な環境整備が行われているか
  • 利用者の残存機能を活用しているか
  • 「車いすの操作」「体位変換」「移乗」などの介助を適切に行っているか
  • 利用者の安全は確保できているか

ただし、2016年度以降の試験では、試験制度の改定により、「福祉系高校卒ルート」または「経済連携協定(EPA)ルート」で介護福祉士の受験資格を取得した場合のみが「実技試験」の対象となります。そのため、ほとんどの方は実技試験が免除となります。

具体的な内容については、次の項目からご説明します。

介護福祉士を働きながら目指す場合は『実務経験ルート』

介護施設等で働き、実務に携わりながら介護福祉士を目指すルートです。

福祉系の学校や養成施設を卒業していない方でも、3年以上の実務経験と必要な研修を受けることで、受験資格を得ることができます。

「実務経験ルート」の条件

  1. 対象となる施設(事業)及び職種での従業期間3年(1,095日)以上、かつ従事日時540日以上
  2. 「実務者研修(EPA介護福祉士候補者以外)」を修了、または「介護職員基礎研修」・「喀痰吸引等研修」の両方を修了

以上の条件がそろうことで、介護福祉士国家試験の受験資格を取得することができます。

「実務者研修」の受験科目は全20科目で、必要な時間は450時間、標準受講期間は6カ月です。 国家試験の実技試験は免除となります。

介護福祉士を未経験から目指す場合は『養成施設ルート』『福祉系高校ルート』『実務経験ルート』

介護未経験の方が介護福祉士を目指す場合、「養成施設ルート」・「福祉系高校ルート」・「実務経験ルート」の3つの資格取得ルートがあります。

実務経験ルート

先ほどもご説明した「実務経験ルート」は、無資格・未経験の方でも、これから介護施設等で働き始め、3年以上の介護業務の実務経験かつ必要な研修を受ければ、受験資格を獲得することが可能なルートです。

養成施設ルート

最短ルートは、介護・福祉系の養成施設に通う「養成施設ルート」です。

「養成施設ルート」は、高校あるいは大学を卒業後、養成施設として指定を受けた養成施設(専門学校や短期大学等)に通い、規定の年数(1年~2年)を修了することで、受験資格を取得することができます。国家試験の実技試験は免除となります。

養成施設に通う期間については、普通科の高校を卒業した方の場合は最短2年、福祉系の大学や社会福祉士養成施設、保育士養成施設のいずれかを卒業した方の場合は最短1年以上となっています。「実務経験ルート」では3年以上の実務経験が必要となるため、「養成施設ルート」はいくつかあるルートの中で最も短い期間で介護福祉士を目指すことが可能です。

ただし、最低でも1、2年間は学校に通うことになるため、費用と時間が必要となります。既に社会人の方や、キャリアチェンジのため介護福祉士を目指しているといった方は、実際に介護の現場で働きながら介護福祉士を目指す「実務経験ルート」を選ぶ方がほとんどだと思います。

また、令和8年度末までに養成施設を卒業する方は、卒業後5年間に限り、国家試験を受験しない、または国家試験が不合格だった場合でも、介護福祉士の資格を有することができますが、令和9年度以降に養成施設を卒業する方からは、国家試験に合格しなければ介護福祉士になることはできません。

令和8年度末までに養成施設を卒業する方は、卒業後5年間のうちに国家試験に合格する、あるいは介護等の業務に5年間従事するといった必要な条件を満たすことで、5年間経過後も、引き続き介護福祉士資格を有することができます。

福祉系高校ルート

「福祉系高校ルート」は、福祉系の高等学校、あるいは福祉のコースがある高等学校を卒業することで、受験資格を取得するルートです。中学卒業後の進路として、将来は介護関係の仕事に就きたいと考えている方などが、福祉系、あるいは福祉科のある高校に進学することで、介護福祉に特化した授業を学ぶことができます。もちろん高等学校ですので、一般科目の授業もあります。

特例高等学校(専攻科を含む)を卒業した方は、介護等の業務に9ヶ月以上従事する必要があります。 実技試験の免除を申請する場合は、「介護技術講習」、「介護過程」、「介護過程III」のいずれかを修了または履修する必要があります。

介護福祉士国家試験に合格するための勉強のポイント

介護福祉士国家試験に合格するための勉強のポイントは以下の通りです。

  • 過去問をたくさん解き、試験の傾向を知る
  • 苦手な分野を克服する
  • 模擬試験を受ける
  • 解説が充実している問題集や過去問を使用する

先ほどからお伝えしている通り、介護福祉士の合格率は70%前後で、国家試験の中では難易度は低いほうです。しかし、決して問題が簡単というわけではありません。勉強不足で合格できるような試験ではありませんから、この合格率は、しっかり対策し試験に臨んだ方の結果ともいえるでしょう。

筆記試験では、すべての科目で得点している必要があるため、苦手分野は克服しておかなければなりません。出題される科目数が多いため、短期集中ではなく、長期で計画的に、毎日コツコツ勉強する必要があります。

まずは、3年分〜5年分の過去問を解き、どのような問題が出るのかなど、試験の出題傾向を把握しておくようにしましょう。どのような問題が出るか分からない状態でひたすら勉強するより、過去問を活用することで、合格につながる効果的な対策をとることができます。

毎年多少の変化はあるものの、試験の出題傾向や難易度が大幅に変わるということはほとんどありません。さまざまな出題パターンに慣れておくようにしましょう。

模擬試験は積極的に受け、問題や試験の雰囲気をつかんでおくのも良いでしょう。

独学の方で、何から始めて良いのかわからない場合は、通信・通学講座を申し込んでみたり、スクールに通い始めたりするのも一つの方法です。動画サイトやアプリ等の無料の学習ツールを活用してみるのも良いでしょう。

特にスクールは、同じ介護福祉士を目指す生徒が集まっているため、それが刺激となり、勉強のモチベージョンにも繋がります。 仕事をしながら介護福祉士を目指している方も多いと思うので、自分が続けやすい・利用しやすいと思う勉強法をみつけて、毎日続けていけるようにしましょう。

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まとめ

今回は、介護福祉士国家試験の合格率や、難易度、受験資格などについてご説明させていただきました。

介護福祉士の合格率は70%前後で、国家試験の中では難易度は低めではありますが、勉強が足りない状態でも受けられるような簡単な試験ではありません。

出題範囲が広いため、毎日計画的に勉強し、しっかり対策をとってから試験に臨むようにしてください。

仕事をしながら介護福祉士を目指している方も多いと思います。自分が続けやすい・利用しやすいと思う勉強法をみつけて、毎日続けていけるようにしましょう。

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