この記事の執筆者/Author
ゆづるケア

介護歴17年の現役介護相談員です。これまでも、管理者やケアマネとして従事してきました。ブログ「ゆづるケア」にて介護に関するコラム記事を執筆しています。

【ブログ】https://yudurucare.com

介護現場では、リスクマネジメントの必要性が高まっており、運営していく中で、より重要な部分として考えられるようになりました。高齢者の安全を守ることはもちろん、事業所・職員を守るためにも必要なマネジメント業務なので、理解しておく必要があります。

そこで今回は、介護のリスクマネジメントについて解説しています。最後まで見ていただくことで、リスクマネジメント能力の高め方やポイントを理解できますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

介護現場のリスクマネジメントについて

介護の現場におけるリスクマネジメントとは、さまざまな事故の対策をおこなううえで、とても重要な要素のひとつです。よくある転倒事故から、ご家族とのクレーム対応など幅広い要素があります。

事故を100%予防するということは難しいですが、ヒヤリハットや実際に起きた事故を検証することで、予防していくことが可能と考えられます。ご家族とのトラブルでは、事前の情報共有や、対応方法の統一で事故件数を減らすことも可能でしょう。

リスクマネジメントは日々の業務や研修・勉強会などで取り入れ、周知や対策の徹底をしていくことが大切です。

介護のリスクマネジメントが必要な理由

高齢者の事故は、些細なものでも後遺症が残り、後の生活に大きく影響を与えることがあります。

ご家族とのトラブルが悪化した場合、訴訟問題に発展してしまう可能性も考えられます。高齢者の安全を守るのはもちろんですが、従業員や事業所を守るためにも、リスクマネジメントは重要です。

次は、リスクマネジメントの必要性について、ひとつずつ詳しく説明していきます。

利用者の安全を守る

何よりも重要なのは、利用者の安全確保です。事故には、転倒転落や内服の飲み忘れなどの事故が多いでしょう。

事故はどれだけ気をつけても、起こってしまうものですが、データ分析や検証を行うことで、1件でも減らす努力を続ける必要があります。

訴訟を防ぐ

ご家族の希望や訴えが強いこともあり、対応が困難な状況もあります。無理な要望を聞くことで、さらに要望が強くなる場合も考えられます。

ひとつひとつ丁寧に対応することはもちろんですが、事故などのトラブル時は注意が必要です。状況説明や、その後の対応方法などを、しっかり伝えておくことでリスクを回避できることも多いでしょう。

説明を怠ると、訴訟問題に発展する場合もあります。大事なことは、ひとつひとつの事例にしっかりと向き合い、検証していくことが大切です。

リスクマネジメントをおこなっていれば、訴えられることもそれほど怖くありません。ただし、訴訟を起こされると、大きな時間を浪費し、大きな損失があるでしょう。また事業所のイメージ低下や、職員の不安につながる可能性があるので、できる限り防ぐことが望ましいと思います。

日頃からご家族との関わりを大切にし、日々コミュ二ケーションを取るだけでも大きなリスクマネジメント効果が期待できるので、まずは挨拶からおこなっていきましょう。

働きやすい職場環境を構築する

間接的に効果があるのは、働きやすい職場環境を作ることです。働きやすい職場環境だと、職員間の情報交換がスムーズにおこなえ、統一したケアを実施することが期待できます。

また、日々切迫した環境ではミスも起こりやすく、事故に繋がってしまう場合もあります。働きやすい環境を作ることで、離職率も低下し、安定したサービス提供ができるでしょう。

介護のリスクマネジメント能力を向上させる方法

リスクマネジメントは、職員ひとりひとりが意識しないといけません。リスクマネジメントを定着させるには、ヒヤリハットやKYTが用いられます。

ヒヤリハット

ヒヤリハットは、業務の中で「ヒヤリとしたこと」や「ハッとしたこと」を記録して情報共有する方法です。ハインリッヒの法則では、ひとつの重大な事故には、29件の中等度の事故があり、さらに300件のヒヤリハットがあると言われています。

大きな事故には、それ以下の小さなリスクが存在しているので、小さな事故や事故に繋がりそうな事象を、ひとつずつ対策していきます。対策を積み重ねることが、大きな事故のリスクを減らすことに繋がるでしょう。

ヒヤリハットは記録するだけにならないよう、日々チェックし、対策を立て検証することが大切です。

KYT

KYTは危険予測トレーニングの略で、名前の通り、危険を予測するトレーニングをおこないます。具体的に事故映像やイラストを使って、次に何が起こる可能性があるかをグループワークなどで意見を出し合います。さまざまな視点から意見を出し合うことで、職員1人ひとりの視野も広がり、効果的なトレーニングができるでしょう。

また、それに対して対策方法を考えていくと、より効果的です。意識向上や習慣化するためにも、会議や勉強会などで継続・実施していくことが大切です。

介護事故を防止するために大切なポイント

介護事故には、対策可能な事故と対策不可能な事故に分けられます。例えば介護を必要とせず、自立した生活ができている方が急に転倒するといったケースは、突発的で防ぎようがありません。しかし、普段から介助を行う必要がある方の場合、多くの事故は、対策可能と考えられます。

発生した事故を、この2つに分け、対策可能な事故から優先的に対策を考えていくといいでしょう。

情報を収集する

事故の対策をおこなうには、さまざまな情報が必要です。情報はできるだけ多く必要なため、ヒヤリハットや利用者の言動なども大切な情報になります。そのため、日頃からの行動や発言も日々記録しておくとよいでしょう。

実際に事故が起きた場合は、同じ事故を繰り返さない対策が必要です。事故が起きた際は、周辺の様子を記録する習慣をつけておきましょう。

たとえば「車椅子のブレーキがかかっていたのか」「車椅子の位置や向き」「ナースコールの位置」などを確認し、共有していきましょう。他にも、気づいた点や改善点があれば、しっかりと発信していくことが重要なポイントです。

多くの情報から事故を分析し、原因を追求していきましょう。

対策を考える

対策を立てるときのポイントは、具体的で実施できる内容になっているかです。対策として「見守り強化」や「意識して行動する」などは、抽象的で対策とはいえません。この対策をみて、実行できる職員はまずいないでしょう。

誰が見ても実行できる内容を意識して、対策を考える習慣をつけましょう。理想的な対策を掲げる方もいますが、対策はご家族との約束事です。「対策を立てたがやっていません」では、話にならず、不信感やクレームにつながってしまいます。実際の現場の状況も踏まえて、確実に実行できる内容にしましょう。

対策可能な事故を対策する

対策可能な事故はとにかく減らしていく必要があります。事故の中でも「うっかり忘れていた」「頭では分かっていた」などが理由の事故もあります。その場合、対策が立てにくい場合もあるでしょう。

しかし「仕方がなかった」「注意しましょう」では片付けずに対策を検討します。仕組み化してしまうと習慣になりやすいので、事故が起きにくい仕組みを考えてみましょう。たとえば「申し送りのあとに必ず確認する」「おやつの時間に様子を見に行く」といったように、日々ルーティンのようにおこなわれる業務に、くっつけて考えるとよいでしょう。

利用者の尊厳は守る

事故に対して徹底していくと、事故に対して敏感になりすぎる職員が出てきます。自分で動ける利用者は、必ず何かしらのリスクを持っています。そのため「利用者が動くと危ない」という偏った思考に入ってしまう職員が一定数発生してしまいます。

「立たないで」「動かないで」といった声掛けは、利用者の人権や尊厳を無視したケアに繋がり、場合によっては身体拘束や虐待につながるケースもあります。事故を予防するという意識はとても重要ですが、身体拘束や虐待につながってしまうというのは本末転倒です。

「動くこと」にリスクはありますが、「動くこと=事故」ではないという意識が重要なので、見失わないように注意しましょう。

行政窓口に報告する

骨折を伴う事故に関しては、行政への報告が義務となっています。また、軽微な事故でも、ご家族とのトラブルにつながりそうなものは、事前に行政への連絡をするようにしましょう。また、クレーマーのようなご家族に対しても、行政へ連絡しておくことで、万が一のときは協力を求めることができます。

行政とのやりとりをマメにおこなうことで、事業所の印象もよくなり、横のつながりを作ることが可能です。

介護のリスクマネジメントは多岐にわたる

現在は、感染症に対して敏感になっています。事業所内の集団感染や職員の出勤停止なども重大なリスクです。また、間接的に利用者の事故リスクを高めてしまうでしょう。

事業所のイメージを悪くする口コミや、ネット上での書き込みなども、大きな損失となる場合があります。携帯やスマホを使用する利用者も当たり前になってきていますので、内部からの告発といったことも考えられる時代です。

献身的な対応をしていれば、何も怖がる必要はありませんが、少しでもリスクを感じることがあれば、早めに対策しておくとよいでしょう。とくに職員の教育や、家族との関係性には注意し、適切な支援をおこない良好な関係を築いていきましょう。 

介護現場のリスクマネジメントを理解しトラブルを回避しよう

介護のリスクマネジメントは、転倒や転落といった事故をイメージしてしまいますが、紹介したように内服に関することや感染症、ご家族とのトラブル、風評被害などさまざまなリスクが存在します。

リスクマネジメントを適切におこない、被害を最小限に抑える努力が必要です。そのためには、日々の関わりや記録がとても重要です。

リスクマネジメントは、言葉だけ聞くと難しく感じるかもしれませんが、実は普段からおこなっていることだと思います。たとえば「安全を意識したケア」「気持ちのよい接遇」です。これらをもう少し具体的に考え、職員で共通の理解と対応ができればよいのです。

リスクマネジメントを理解し実施することで、利用者・ご家・事業所・職員すべてを守ることができるので、ぜひ今回の内容を介護現場で実践してください。

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